December 20, 2024

付加価値生む世界初の水平リサイクル「RefF」

By OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Unicharm’s strong points

1.「SDGsの実現」をパーパスに、「共生社会の実現」をミッションに掲げる

2.CDP 2023年版の「フォレスト」「水セキュリティ」でAリストの評価

3.2015年から、紙おむつの水平リサイクルプロジェクト「RefF」の実証実験

4.世界で初めて商用化。水平リサイクル商品を量販店や保育施設などに展開


「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への貢献を謳う企業は世界に数多ある。しかし、廃棄された商品や容器などを回収し、もう一度同じ商品や容器へと再生する「水平リサイクル」を実現している企業は数少ない。日用品大手のユニ・チャームはその一社だ。

同社は「紙おむつ」や「生理用品」で国内トップシェアを誇る。海外進出にも積極的で、アジア・オセアニア・中東、北アフリカなど世界80以上の国・地域で展開。売上高は1兆円に迫り、海外売上比率は67%に達する。

サステナビリティの実現にも積極的な先進企業としても名高い。

2020年5月に公表した「環境目標2030」では、「プラスチック問題」「気候変動」「森林破壊」という3つの課題に対し、2050年のあるべき姿「2050ビジョン」を掲げ、製造時のCO2排出量を2030年までに34%減、2050年までに100%減にするなどと宣言。すでに2023年は、2016年比で製造時のCO2を55.4%削減しており、着実に進捗している。

2020年10月には、中長期ESG目標の「Kyo-sei Life Vision 2030」を公表し、高齢化や貧困、ジェンダー問題など、より広範な社会課題の解決に取り組む姿勢を明確にした。環境問題への対策もより具体化させ、事業で用いるすべての電力を2030年までに再生可能電力にすると宣言。バージン石油由来のプラスチック使用も同年までに半減させるとした。

こうした姿勢を国際非営利団体「CDP」も高く評価。2024年2月に公表された2023年版で、ユニ・チャームは「フォレスト」と「水セキュリティ」の2部門で最高評価の「Aリスト」に選定。「気候変動」は「A-」評価だった。

しかし、何より評価されるべきは、「紙おむつの水平リサイクル」という偉業を、世界で初めて達成したことだろう。


洗浄のハードルを超えたオゾン処理

「紙おむつの水平リサイクルに早期に取り組み、商品の実用化は世界で初めてです。今年から、実際に商用化もできました。その分野においては先頭を切っていると言えます」――。ユニ・チャームの高原豪久社長はこう自負する。

高原社長は2001年、創業家の2代目としてトップに立ち、海外展開を強化すると同時に、サステナビリティへの取り組みも一気に加速させた立役者だ(囲み記事を参照)。

主力商品である紙おむつは幼児用から大人用、ペット用と幅広いラインナップを誇る。高齢化が進む日本では大人用の紙おむつの需要が増加。人口増加が進む新興国での普及も進む。

ただし、直接、肌に触れる紙おむつは衛生用品でもあり、気軽に使い捨てできる利便性ゆえに普及した側面もあり、リサイクルの対象として見られることはなかった。かつ、紙おむつは不織布や防水フィルムなどのプラスチック、吸収材となる紙パルプ、高分子吸収材(SAP)などが複雑に重ねられているため、分解や資源化も困難。汚物にまみれた紙おむつをリサイクルしようなど、誰も考えなかった。しかし、ユニ・チャームは挑んだ。

きっかけは2010年頃、2人の技術者が、なんとか使い捨ての紙おむつを水平リサイクルできないかと研究開発に着手したこと。プラスチック類や紙パルプへ分解できたとしても、洗浄のハードルは高く、道のりは長い。それでも高原社長は、今後のSDGsの実現に向けてこのテーマが企業としての責務であると捉えて、社長の専管としてプロジェクトを支えた。

水平リサイクルの実現は、ユニ・チャームの存続をかけた悲願でもある。背景にあったのは「使い捨て商品を主力に資源を消費し続けるだけでは、事業が存続しない」という危機感だ。

大人用紙おむつの需要は高齢化の加速で増加し続ける一方。紙おむつは一般ゴミとして焼却処分されることが多く、CO2の排出を助長する可能性もある。

ユニ・チャームは、「資源を消費する使い捨て商品の会社」として認識されては、持続可能な社会を目指す消費者や社会からの期待に応えられなくなる可能性がある。このため、長期的な事業の存続と社会貢献の両立を図るために、事業モデルの転換が迫られていた。

試行錯誤を繰り返し、行き着いたのが独自のオゾン処理による殺菌・漂白・脱臭技術である。

オゾンが持つ強力な酸化力でもとの紙パルプと同等の品質にすることが可能。オゾンは適切な濃度で使用し、処理後は酸素になる、まさにサステナブルな技術。約5年で技術的な目処がつき、プロジェクトは次のフェーズへと移った。

Unicharm’s RefF products come in a broad range for infants, adults and pets. Mamy-Poko Pants diapers are provided to 56 publicly run day care facilities in Yokohama.
© UNICHARM

自治体との連携で社会実装

2015年、水平リサイクルの商用化へ向け、社内横断プロジェクトの「RefF(リーフ)」が発足した。「Recycle for the Future」の頭文字を取った造語である。

商用化への大きな課題の一つが、回収プロセスだった。ゴミ回収は自治体が担っている。民間企業の努力だけで大量の紙おむつを回収することは困難であり、自治体との協働が不可欠。そこで、2016年度から鹿児島県志布志市と連携し、実証実験に臨んだ。

人口約3万人の志布志市は、ゴミの焼却施設がないため埋め立て処分をしている。処分場には限りがある。臭いや汚染などの問題も避けるため、「無色透明びん」「茶色びん」「割り箸」など資源ゴミを27品目に細分化してリサイクルへと回し、一般ごみも「生ゴミ」「廃食油」を分けて回収し、肥料などへ再資源化している。

世界的にも稀な分別の先進自治体だが、志布志市の一般ゴミのうち1〜2割を占める紙おむつはリサイクルできず、一般ゴミとして埋め立て処分していた。これがリサイクルできれば、埋め立て処分場の延命にもつながる。2016年、志布志市はRefFプロジェクトへの参画する最初の自治体となった。

ユニ・チャームは近隣のリサイクル施設「そおリサイクルセンター」内に実証実験施設を構え、社会実装に取り組んだ。2018年には、同リサイクルセンターがある鹿児島県曽於郡大崎町もRefFに参画。この2自治体から回収された使用済み紙おむつから再生パルプを製造することに成功すると、2022年5月には、それを用いた大人用紙パンツ「ライフリーRefF」の商品化を九州地区の病院・介護施設への提供を開始した。そして今年・2024年、RefFプロジェクトはさらなる展開を見せた。

This Unicharm chart illustrates the horizontal recycling of paper diapers.
© UNICHARM

RefF商品の一般販売を開始

ユニ・チャームは2024年4月、再生パルプを使用した水平リサイクル商品(RefFシリーズ)のラインナップを、大人用に加え、子ども用、猫用トイレシートへと拡大して、九州の大手GMS「イオン九州」の全68店舗と、ユニ・チャームオンラインストア「ダイレクトショップ」での一般販売を開始した。猫用トイレシートは大手ホームセンター「コーナン」109店舗でも扱われている。

価格は通常品よりも数%高いが、売れ行きは上々だ。子ども用「マミーポコパンツ」のうち、RefFシリーズの販売割合は11%程度。高原社長は「ワンコイン高くても手に取ってくださる消費者はいる。想定以上に、購入してくださっている。オポチュニティは大きい」と手応えを感じている。

使用済み紙おむつの回収もアップデートがあった。これまで志布志市は、一部の公民館などに紙おむつの回収ボックスを設置し、テスト回収を行っていたが、2024年4月から市内全域での回収に踏み切った。市内約470カ所のゴミ回収所に「紙パンツ(おむつ)専用回収ボックス」を設置。

実は、この回収ボックスと専用袋にもまた、回収された使用済み紙おむつからリサイクルされた再生プラスチックが使用されているという。高原社長はこう語る。

「回収ボックスや専用袋への再生プラスチックの含有も、コストや強度の問題などいろいろとハードルがあり、大変でした。しかし、目に見えて、気づいてもらうことが大事だと思い、挑戦しました。生活習慣に溶け込まないと、続きません」

高原社長が言う「生活に溶け込む」アプローチについては、これまた他に例を見ない “サービス”にも期待がかかっている。

Shibushi in Kagoshima Prefecture has diaper boxes like the one in the middle here at about 470 garbage collection points.
© UNICHARM

「手ぶら登園」にRefF導入

ユニ・チャームは2024年10月から、「手ぶら登園」を採用している横浜市のすべての公立保育園(56園)に「マミーポコパンツRefF(リーフ)」の提供を開始した。

手ぶら登園とは、保育施設向け紙おむつのサブスクリプション・サービス。BABY JOBと協働で展開しており、導入施設に通う児童の保護者がサービスに加入すると、保育施設側に届けられた紙おむつを園が使用してくれる。保護者は、名前を書いた紙おむつを持参する手間が省け、保育施設も個別管理をしなくて済むというメリットがある。

2019年にサービスを開始して以降、導入保育施設は右肩上がりで伸び続け、2024年7月時点で全国の保育施設の約13%にあたる5200箇所以上で手ぶら登園を利用できる状況にある。累計の利用者数は10万人以上。ユニ・チャームはこのサービスに、横浜市と提携するかたちでRefFシリーズを組み込んだ。

つまり、志布志市と大崎町で使用済み紙おむつを回収。そこから再生した紙おむつを横浜市の公立保育園の園児に提供するというサイクルを築いた。

この水平リサイクルとサブスクリプション・サービスの組み合わせは、RefFの取り組みを飛躍的に拡大させる可能性を秘めている。

まず、適切に廃棄された十分な量の使用済み紙おむつを回収しなければ、十分な量の再生品は作れない。前述のように、回収には自治体の協力が不可欠だが、現状はまだ鹿児島県の2自治体に限られている。その中で、手ぶら保育との掛け合わせは、保育施設という新たな回収拠点の創出につながる。

実際に、志布志市では2023年4月より、同市内で手ぶら登園を導入している5つの保育施設からも使用済み紙おむつを回収する取り組みを始めている。保育施設では日々、大量の紙おむつが廃棄されているため、保育士によって適切に分別されている。志布志市でのノウハウをもとに、いずれは全国数千箇所の保育施設が回収拠点の一つになっていくだろう。


自治体との連携の意義

同時にユニ・チャームは、志布志市のようなごみ回収における協業も拡大させ、2030年までに全国10の自治体に拡大することを目標に掲げている。対象は、志布志市のような焼却施設がない自治体とは限らない。高原社長は「焼却施設を持つ自治体にとってもメリットは多い」と強調する。

「焼却施設がある自治体でも、資源として使用済み紙おむつを回収できれば、全国の一般ごみのうち6〜7%を占める紙おむつのゴミ容積がだいぶ減ります。容積が減れば、焼却炉の規模縮小が図れる。水平リサイクルした再生品を自分の自治体で展開できれば、サステナビリティや共生社会に共感する市民のニーズにも応えることができます」

「朝の忙しい時間に少しでも余裕をもってもらう手ぶら登園の導入は、自治体にとっての少子化対策や育児支援にもつながります。そこに回収スキームと、再生品の提供が加わることで、付加価値がダブル、トリプルになってくる。住民に対して非常に説得力がある施策だと考えています」

RefFの趣旨に賛同する自治体は多いというが、回収や処理にかかるコスト負担や住民理解などの壁をなかなか超えられないのが実情だ。ただ、時代の流れは確実にサステナビリティや共生社会の実現へと傾いている。大規模な自治体が1つでも動けば、一気に潮目が変わると考えている、と高原社長は未来を見通す。

さらに、RefFは現状、主に紙おむつの水平リサイクルのプロジェクトを指すブランドとして用いられているが、高原社長の捉え方はその枠を大きく超えている。


拡大していくRefFの概念

高原社長は「生理用品の水平リサイクルも可能だと考えている」とした上で、こう語った。

「私の中では、紙おむつや生理用品のような吸収体に限らず、ペットフードなどの商品も、あらゆるサービスも含めて、すべてにRefFのブランドを付けられるような概念に進化させていきたいという考えがある。RefFはリサイクル・フォー・ザ・フューチャーからとった造語。当社流のサーキュラーエコノミーの象徴にしたいという思いがあります」

実際にRefFは、水平リサイクルによる再生品だけに用いられるブランドではなくなりつつある。そして、ユニ・チャームという企業の枠すらも飛び越えている。

2024年10月、衛生用紙大手である王子ネビアはRefFブランドを冠した新たなトイレットペーパーを発売した。ユニ・チャームが回収した使用済み紙おむつからは、リサイクル困難な廃プラスチックも得られる。王子ネビアの新商品は、それを原料とする「固形燃料(RPF)」で発電した電力で生産されていることから、RefFマークをパッケージに示した。

つまり、ユニ・チャームが創出する新たなサーキュラーエコノミー、すなわち、SDGsや共生社会の実現に貢献するバリューチェーンに関わる商品、サービス、企業、あらゆるものが、RefFになり得るということだ。

もはや、RefFだと認定できない商品やサービスはやらない、というところまで持っていくつもりなのだろか。そう高原社長に水を向けると、こう答えた。

「それは、非常に鋭い指摘です。今、当社の社員でも圧倒的多数が、RefFをリサイクル紙おむつのことだと思っています。それだけではない。そうじゃないんだと。ご指摘のようにしていけば、RefFの本当の意味や概念がもっと社員やお客様にも浸透すると思います」

RefFがユニ・チャームそのものを象徴するブランドへと進化する日は、そう遠くないのかもしれない。

PHOTO: TSUTOMU SUYAMA

当社の絶対価値はサーキュラーエコノミーの創出

高原 豪久
ユニ・チャーム株式会社
代表取締役 社長執行役員

なぜユニ・チャームはサステナビリティに本気になれるのか。なぜ水平リサイクルへの取り組みに本気なのか。その問いに一言で答えるならば、それは「ユニ・チャームの絶対価値はサーキュラーエコノミーの創出だから」になります。

社会と企業がともに発展することを社是に謳い、赤ちゃんからお年寄りまで、ペットも含め、人々の生活に寄り添ってきました。すべての生活者に寄り添う当社にとって、国連が目指すSDGsというのは、ユニ・チャームの存在意義(パーパス)そのものだと考え、SDGsの実現をパーパスとしました。

SDGsの実現された社会のイメージは、人やペットはもちろん、社会や地球環境と「共生」していく世界と合致する。その思いからミッションは「共生社会の実現」とし、2020年10月に公表した「Kyo-sei Life Vision 2030」では具体的なテーマや目標を設定しています。

その中で、「共生社会の実現」と現実のギャップを埋めるために必要なアプローチとして、「サーキュラーエコノミー」を我が社の絶対価値とした。ただし、我々が考えるサーキュラーエコノミーは一般的な概念と少し、違うかもしれません。

サーキュラーエコノミーとは、一般的には資源を循環させる経済を指しますが、我々は単なるリサイクルではなく、商品やサービスの付加価値を上げながらサステナブルなバリューチェーンを創出していくことを目指しています。

リサイクルはコストがかかります。当然、採算が合わなければサステナブルではない。つまり、そのコストを吸収できるような「付加価値」を創出できなければ“エコノミー”として成立しない、というのが我々の考え方です。

ですから、コストが上がる分、それを補う「機能」をどう増やすか。消費者のモチベーションをどう上げ、エシカルなニーズにどう応えてしていくか。考え抜いて、紙おむつの水平リサイクル事業のプロジェクト「RefF(リーフ)」に取り組んできました。

使用済みの紙おむつを回収し、洗浄後、オゾン処理して紙パルプなどを再生しています。この技術によってバージンパルプと同等、それ以上の品質となります。衛生用品として、明らかにリサイクル以上のプラスの価値と言えます。

少し高くても、環境に優しいエシカルな商品を購入することで、SDGsへの貢献欲を満たしたいと考える消費者も増えてきました。そうした方々の価値観やライフスタイルに応える、いわば「自己表現価値」のような新しい価値も求められています。

従来、購買の動機となっていた「機能的価値」「情緒的価値」に続く、この新しい第3の付加価値も、RefFの商品群は持ち合わせています。ゴミがリサイクルされて資源に変わり、森林資源や焼却炉を延命させる取り組みに参画することが、買うべき理由になっているのです。

こうした付加価値を生む新たなサーキュラーエコノミーの創出こそが、これからのユニ・チャームの本業にならなければいけない。共生社会の実現に向け、社会課題の解決につながる商品やサービスを生み出す仕事に集中していく所存です。

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