February 21, 2025
女性支援は<カルティエ>のコミットメント。
PHOTO: YURI ADACHI
日本は女性の地位、社会活躍という文脈で、残念ながら「後進国」と言わざるをえない。ジェンダー・ギャップ指数では、146カ国中118位(2024年)と低迷を続け、なかでも政治、経済分野での女性の社会参画の低さが際立っている。こうした指数によるエビデンスだけでなく、日本の女性が置かれる現状について、女性自身が意識的でない傾向が根強く残っていることを感じさせる日常生活の場面や発言に出会うことも珍しくないだろう。では変化のアクションはどのように起こすことができるのだろうか。
ウーマン エンパワメントの取り組みに注目すべきコミットメントを行う企業に、フランス生まれのラグジュアリーメゾン、<カルティエ>がある。同社は2006年に、女性インパクト起業家の支援を通して、社会に変革を起こすことを目指す『カルティエ ウーマンズ イニシアチブ』を創設。2012年には、貧困のなかに置かれる地域のコミュニティの生活改善を目的とする『カルティエ フィランソロピー』を設立し、特に子どもと女性に手を差し伸べてきた。
さらに2020年ドバイ国際博覧会に続き、今年2025年4月に開幕する日本国際博覧会(大阪・関西万博)で<カルティエ>は、内閣府、経済産業省、博覧会協会との共催で、女性のエンパワーメントなどをテーマにした「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」を出展する。
こうした傑出したウーマン エンパワメントのアクションを次々に起こす根底にある考えを伺うため、カルティエ ジャパン プレジデント&CEO宮地純を、千代田区半蔵門にあるオフィスに訪ねた。
宮地は2017年同社に入社し2020年に現職に就任。時はコロナ禍の幕開けと重なり、まず社員の生命を守ることが最優先であった。
「着任してまず初めに行ったのが全店のクローズです。社員の安全と雇用をいかに確保していくのか、危機管理対策に追われる毎日でした。普段の仕事は、対社員ですが、この時期に会社というのは社員の向こうの家族や背景をも含む、より大きなエコシステムに支えられていることを実感しました」と宮地は回想する。そして就任から4年が経過する。
「目前の危機管理、そして経営的成功を経ながら、長期的なビジョンを見据えることができるようになりました。それが『普遍的な美の探究を通して、心の豊かさを追求する』というミッションです」。
メゾンとしてどのように社会、そして文化に貢献していけるのか。その視野のなかにウーマン エンパワメントへの取り組みもあった。
「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」は、女性起業家のプロジェクトを認知・支援、奨励することを目的に、2006年<カルティエ>によって設立された国際ビジネスプラン コンペティション。2024年は、33名のインパクト起業家が受賞した。
COURTESY: CARTIER
「カルティエにとって、女性は尽きることのないインスピレーション源であり、メゾンのクリエイティビティと価値観の基礎であり続けています。1933年にクリエイティブディレクターに抜擢されたジャンヌ・トゥーサンはとても力強い女性で、メゾンの象徴、「パンテール(豹)」に由来しパンテール・ウーマンと呼ばれていました。彼女のスピリットはメゾンのDNAに脈々と引き継がれ、私たちが女性の活躍を応援することは非常に自然な流れでした」。
宮地はこう続ける。
「ジェンダー・ギャップ指数で118位という順位は、必ずしも日本が対策を講じていないことを意味するものではありませんが、相対的に、また世界的に見れば、改善と加速の余地は大いにあります。他の国々もこの問題に取り組んでおり、共通の課題や解決策を交換することで学ぶことは多い。加速させるためには3つの視点があると思っています」。宮地は話を続けた。
「ひとつは全般的な意識です。その“意識スイッチ”をオンにする必要があると思います。一度問題を知ってオンにすると、周りの景色が変わり様々なものが見えてきます。ですから大多数の意識をオンにすること。2つ目はリーダーのコミットメントです。私は、特に経済的、政治的な分野におけるリーダーたちのコミットメントが、大きな変化をもたらすと信じています。そして3つ目は環境です。今の日本には女性の社会進出を後押しする環境づくりが必要です。この後押しはいずれは必要なくなることが理想だと考えています」。
進化を加速させる3つの視点は、大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」で具体的なかたちとなって、私たちを「ともに」巻き込んでくれるのではないだろうか。パビリオンのコンセプトは「ともに生き、ともに輝く未来へ」である。
パビリオン建築の設計は、建築家の永山祐子。そのファサードがドバイ国際博覧会日本館のファサードを再利用・再構築したものであることにも注目したい。
「大阪・関西万博では、来場者の方々には感覚的に心で捉えてもらえることを期待しています。“自分ごと”として捉えていただきたい」と宮地は意欲的だ。
開催期間中「ウーマンズ パビリオン」2階の「WA」スペースでは、150を超えるイベントを計画している。数々のセッションが、“意識スイッチ”をオンに変え、女性の社会活躍を加速する原動力となることを期待したい。
COURTESY: CARTIER
宮地純 June Miyachi
カルティエ ジャパン プレジデント&CEO
京都大学法学部卒業後、外資系証券会社に入社。INSEADにてMBAを取得後、ラグジュアリー業界でのキャリアをスタート。2017年リシュモン ジャパン株式会社に入社し、カルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション本部長に就任。2020年8月より現職。