April 25, 2025

沖縄で食材の可能性を追求するフレンチ。

ライター:寺尾妙子

コース9品めは山に生息する沖縄固有種の「琉球ハシブト烏」。ミカン畑を荒らす害鳥として駆除されたものを小島がすべて引き取って調理している。胸やモモのミンチにカラスの好物である金柑、レモンの皮などを合わせて。
PHOTOS: TAKAO OHTA

電話番号も住所も非公開。ホームページから予約を完了して、初めて所在地を教えてもらえる隠れ家的なフレンチレストランが沖縄にある。『モヴェズ エルブ』は那覇空港から車で1時間強。沖縄本島中部にあるうるま市の、スナックが密集するエリアにある。まさかこんなところにガストロノミーなフランス料理店があるとは想像もつかない立地だ。だが、「ここは沖縄本島のなかでも東西の幅が狭く、海にも山にも近いので、食材をとりに行きやすいんです」とオーナーシェフ、小島圭史はこの地を選んだ理由を語る。

元々、宮城県で生まれ、関東や静岡県で育ち、東京で修業をしたが、途中、働いた沖縄が肌に合い、3年間の渡仏生活後、沖縄に移住。2008年にケータリング専門の『名前のない料理店』を開業し、2021年、カウンター9席の『モヴェズ エルブ』を開く頃には、いつしか“沖縄食材をもっともディープに知る料理人”と噂されるようになっていた。そのきっかけは、沖縄の市場には在来種のものがあまり出回っていない現状に小島自身が疑問を感じ、生産者との距離を縮めていったことからだという。現在は漁師とともに船に乗り、その場で魚の神経を締め、猟師の狩りについて行けば、そのまま自前の屠畜場で肉を処理するまでになっている。¥22,000(税込)のコースは小島による沖縄食材発掘の成果そのもの。しかも、途中出されるバターを除き、塩は一切、使わない。

「6年前に、塩を使った途端、自我が出ることに気づいたんです。『モヴェズ エルブ』は自己表現の場ではないという考え。森羅万象、天地人、素材に関わる人の気を、お客さまと一緒に体現する場にしたいんです。そう考えると塩は必要ないので」

沖縄 (フレンチ)
モヴェズ エルブ
住所・電話番号は非掲載
https://mauvaiseherbe.okinawa.jp/

ただ、貝のジュやイカのワタなどを使えば、自然に“塩分”は加わる。また、小島は沖縄の白菜にりんごの皮を入れて醗酵させた自家製のお酢を調味料として多用する。現在、小島が生産者と協力して、本来、廃棄される予定だった経産牛を2年かけて肉牛農家で再肥育し、食材として流通させている、あやはし牛のローストにも塩やソースを添えない。白菜酢を塗ってフライパンで焼き付けたときの苦味と甘みで調味するのだ。

塩を使わないスタイルは、1960年代に始まったヌーベルキュイジーヌ以降、より軽やかでヘルシーなものを目指し続けるフランス料理の最先端とも言える。地域の食材を活かすとはどういうことなのか。深く考えさせられる一軒である。

小島圭史(おじま けいじ)

1970年、宮城県生まれ。関東や静岡県で育ち、航空会社で3年間勤務の後、25歳で料理の道へ。東京都や沖縄県のフランス料理店を経て、渡仏。フランスで3年間腕を磨き、2003年に帰国。沖縄に移住し、2008年に出張料理店『名前のない料理店』を開業。沖縄食材のみで構成するコース仕立てのフランス料理を、ケータリングで提供。2021年、これまで仕込みなどに使っていたアトリエをカウンターレストラン『Mauvais herbe』としてオープン。

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