October 24, 2025

【くるますし】愛媛県の魚介類を包丁技で別次元の寿司に。

スペシャリテは前半に登場する蒸し鮑。瀬戸内海の海藻をたくさん食べて育った黒鮑を6時間かけて蒸し、なめらかに仕上げた肝ソースを添える。続いて出される、ひと口サイズの酢飯にソースを絡めて食す。
PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

今年で5年目を迎えたるジャパンタイムズ主催の「Destination Restaurants 2025」の一軒に、愛媛県松山市にある『くるますし』が選出された。実は今まで、四国地方から同賞の受賞はなく、今回が初の選出である。場所は松山空港から車で30分ほどの繁華街。同地で生まれ育った店主、高平康司は父が1976年に創業した『くるますし』を2017年に引き継ぎ、寿司を握る。

愛媛県の杉を使った網代天井をはじめ、茶室を思わせる店内は、木の香も清々しいカウンターが8席。料理はおまかせコース¥27,500(税込)で、17時〜と19時30分からの2部制。ゲストの7割は県外から。うち1割がアジアを中心とするインバウンド客だ。

高平は幼い頃より寿司職人を目指し、『銀座 鮨青木』と銀座『鮨よしたけ』で江戸前寿司の技を身につけ、2016年に帰郷。2017年に父が創業した『くるますし』を継ぎ、2021年には店舗をリニューアル。一躍、四国の注目店となり、県外からフーディーが訪れるようになった。

愛媛県 (寿司)
くるますし
愛媛県松山市一番町1-6-9
Tel: 089-932-3689
https://www.kurumasushi.com

「大阪で修業した父のシャリは砂糖が入った甘口でしたが、私のシャリは米酢に少し赤酢を加え、砂糖なし」と高平は言う。

魚はほぼ愛媛県産。季節によっては、カリスマ漁師として知られる愛媛県今治市の漁師、藤本純一が神経締めを施した魚も扱う。いい魚を仕入れて、切れる包丁で上手に切れば、それだけでもいいネタになる。だが、高平はそこからさらに特別な包丁技を加えることで、寿司に彼のアイデンティティを付加する。

たとえば、先述の藤本から仕入れた鱧の造り。通常、鱧は細かく硬い骨を食べやすくするために、皮を薄く残しながら“骨切り”をするが、高平は骨を包丁を使って取り除くという特殊な仕事をする。当然、口当たりはさらになめらかになる。また、握りを口に運んだ瞬間、マナガツオの表面が通常よりもかなり、ツルッとした食感だったので、高平に問えば、「マナガツオを切る包丁を通常より、かなり目の細かい砥石で研いでいるので」とのこと。さらには「包丁の刃の金属の種類によっても素材の味は変化する」とも語る。

寿司の聖地、東京から遠く離れた愛媛県で、日本料理最大の特徴である “切る”技術を深め、寿司の新しい境地を開く料理人が誕生していた。

高平康司(たかひら こうじ)

1990年、愛媛県松山市生まれ。中学生の頃より包丁を握り、自分で釣った魚を捌いていた。『銀座 鮨青木』で2年間、銀座『鮨よしたけ』で5年間修業。休日には別の日本料理店でも研修をしながら、日本料理と江戸前寿司の技を身につける。2016年、故郷に戻り、父が1976年に創業した『くるますし』に入店し、親子でつけ場に立つ。2017年に高平が2代目店主を継ぎ、2021年リニューアル。

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