May 30, 2025
【ひまわり食堂2】新しい“美⾷の地”富⼭県の個性派イタリアン。
今年「Destination Restaurants」に選出された10 店から、2025 年を代表する1 店である「The Destination Restaurant of the Year 2025」には、オーナーシェフ・⽥中穂積が、富⼭県富⼭市で独⾃のイタリア料理を提供する『ひまわり⾷堂2』が輝いた。富⼭市は今年1⽉「The New York Times」が発表した「2025に訪れるべき52か所」(52 Places to Go in 2025)で、大阪・関西万博の開催地である⼤阪市とともに⽇本から選ばれた街である。2024 年元⽇に起きた「令和6 年能登半島地震」で⽯川県同様、被害のあったこの地域を応援する意味合いもあるようだが、京都市などでオーバーツーリズムが問題化するなか、「⼈混みを避けながら、⽂化的な感動と美⾷を存分に楽しめる」ことが主な理由となっている。記事では建築家・隈研吾が設計した公共図書館を併設する<富⼭市ガラス美術館>のほか、フレンチビストロや居酒屋、ジャズバーなどカジュアルな飲⾷店が紹介されている。
だが、「Destination Restaurants」第1回⽬の「The Destination Restaurant of the Year 2021」を受賞した『レヴォ』を筆頭に、富⼭県には県外のみならず、海外からもゲストがやってくるようなファイン・ダイニングが増え続けている。2023 年にオープンした『ひまわり⾷堂2』も、おまかせコース1 本18,000円(税込)のファイン・ダイニングだが、その前進となる『ひまわり⾷堂』は⿊板でアラカルトのメニューを載せているような、気楽なイタリアンレストランとして2013 年に誕⽣した。同店のように最初はリーズナブルな価格設定から始めて、順調に集客ができるに従い、単価を上げていき、ガストロノミー化する流れは、地⽅のファイン・ダイニングによく⾒られるが、その背景は様々だ。
東京で修業していた⽥中は、知⼈からの誘いで富⼭市でシェフを務めるため、2012 年故郷にU ターン。だが、半年で店を解雇されてしまう。その後、アルバイトをしながら資⾦を貯め、2013 年に『ひまわり⾷堂』をオープン。客単価は当初は⾷べて飲んで6,000〜8,000円。最終的には12,000円コースの料理も置くようになったが、⽥中⾃⾝はコースには抵抗があった。
富⼭(イタリアン)
● 富⼭県富⼭市神通本町1-5-18
https://r930900.gorp.jp
「アラカルトの場合、お客さんが選んだものを出せばいいという気楽さがありますが、おまかせコースにはクリエイションが求められます。それは僕にはできないと思っていました。でも、移転して『ひまわり⾷堂2』を始めるにあたって、借⼊も増えて席数も8 席に絞るとなると18,000円コースをやらざるを得ない。そこで実際に作ってみると、意外にアイデアが湧いてきたんです」
実際、鰹節を加えた⼭芋のクレープにホタルイカを載せた、まるで⽇本料理のような前菜があるかと思えば、アラブのファラフェル(ひよこ⾖のコロッケ)をアレンジした⼀品が登場するなど、コースには楽しいアイデアが満載。そこには本⼈の才能もさることながら、県内の料理⼈の連携によって、⾃然発⽣的に⽣まれた“チーム富⼭”の影響も多分にあるだろう。「10 年ほど前から富⼭県内のシェフたちと仕事終わりによく集まっていたんです。メンバーはファイン・ダイニングのシェフが中⼼。まだ『レヴォ』を開く以前の⾕⼝英司をはじめ、フレンチ、イタリアン、⽇本料理などジャンルもバラバラだったのですが、時折、パテを持ち寄って⾷べ⽐べるような勉強会なども開いていて、すごく刺激を受けました」と⽥中は語る。⽥中の活躍により、“チーム富⼭”の輪が広がれば、富⼭県はますます“⾏くべき場所”になっていくだろう。
PHOTOS: TAKAO OHTA