June 09, 2026
【SOMPOホールディングス】「火消し」の精神をウェルビーイングへ。SOMPOの社会課題解決への挑戦

SOMPOグループは、130年以上前の「火消し」の精神を原点としており、その精神は現在も事業運営に受け継がれている。
同グループの源流である日本初の火災保険会社は1888年に創業。江戸時代の鎖国が終結し、日本が対外開放と近代化を進める時代に設立された。しかし当時の東京は依然として火災に脆弱で、いったん出火があれば密集した木造家屋が焼失する状況にあった。
「世のため人のために、お客様のもとにいち早く駆けつけるというDNAが非常に強い会社だと思います。」SOMPOホールディングスのグループCSuO 執行役員専務の酒井香世子氏は、経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。
この価値観は、東日本大震災と津波が東北地方を壊滅的に襲った際に、とりわけ鮮明に表れた。本社から数千人のスタッフが被災地へ向かい、現地の被災者に対する地震保険金の支払い手続きを支援した。さらに、社員たちは社内で義援金キャンペーンを立ち上げ、わずか2週間で1億円を超える寄付金を集めたという。
環境課題にいち早く着手
SOMPOグループは、気候変動への懸念が世界的に高まる以前から、環境課題の重要性と企業が取り組む意義を認識していた。1992年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(通称・リオ地球サミット)には、日本企業として数少ない参加企業の一つとして加わった。同会議には179カ国から政治指導者、外交官、科学者、NGO代表者らが集まり、社会経済活動が環境に及ぼす影響が主要議題となった。
こうした課題への対応を急ぐ必要性を踏まえ、前身の安田火災海上は同年、日本の金融機関として初めて社内に「地球環境室」を設置した。
2024年に同グループは「“安心・安全・健康” であふれる未来へ」にパーパスを再言語化した。「創業は損害保険から始まりましたが、現代社会のさまざまな社会課題を踏まえ、新しく目指す姿を再構築し、現在のパーパスになっています」と酒井氏は話す。
損害保険事業は、現在も同グループの中核を成す主要事業であり、自動車保険、火災保険、賠償責任保険など、個人および企業向けに各種の損害リスクを補償する保険商品を含んでいる。グローバルにおける保険収益は5.1兆円を超え、29の国と地域で事業を展開し、グループ全体で7万人を超える従業員を擁している。

積極的な買収戦略で介護事業を拡大
同グループの企業理念の特徴は、国内外の損害保険という従来の主力事業の拡大にとどまらず、生命保険や介護サービスを含むウェルビーイング事業をもう一つの中核領域に据えている点にある。平均寿命の伸長と高齢化の進展を踏まえ、健康だけでなく、資金面や予期せぬ事態に伴う将来リスクを防ぐ重要性を示している。
この理念に基づき、SOMPOグループは介護事業を施設介護と在宅介護の両面で拡大してきた。2026年4月時点で高齢者向け施設・住宅の居室数は2万9,000室に達し、国内業界で首位の規模を有する。
成長の主因は積極的な買収戦略にあった。2015年12月にワタミの介護を、2016年3月にメッセージを買収し、同社は国内第2位の介護事業会社となった。
一方で、介護事業の労働生産性向上や人材不足への対応が求められるなど、事業環境は必ずしも平坦ではなかった。また、2020年代初頭には、不適切な保険料価格調整や保険金請求問題を含む不祥事を受け、保険業界全体でコーポレートガバナンスの強化が求められた局面が続いた。
ウェルビーイングの事業モデルを確立していく
同グループは、ウェルビーイングを損害保険と並ぶ事業の柱と位置づけ、社会課題への先行的な対応を図っている。高齢化に伴い拡大する三つ―介護、健康、老後資金―の不安の軽減を重要課題と捉える。「突然親の介護が必要になった際に何をするべきかという問い合わせは非常に増えています」と酒井氏は話す。
こうした不安の軽減に向け、同グループは「ウェルビオ」と呼ぶワンストップ型の総合相談窓口を立ち上げた。具体的なケースに対し、オンラインと実店舗での対面の双方で助言を提供する。ライフコンシェルジュが、一人暮らしの高齢の親の見守り、高齢期に備えた財産管理の準備、相続の進め方といった相談に対応するほか、全国数万件の中から適切な介護施設を探す支援も行う。
酒井氏は「特に自然災害については、発生後ではなく事前に行動を起こす重要性が一段と高まっていますが、それは介護でも同じことが言えます」とした上で、深刻な事態を避けるためのヘルスケア関連サービスに関するアドバイスをまず提供し、実際に介護が必要になった際には適切な施設を紹介できる体制を整えていると説明する。
酒井氏は「課題先進国である日本でウェルビーイングの事業モデルを確立できれば、将来的には他国への展開ができる可能性が高まる」との見方を示した。

Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

リスク対応を超え、ウェルビーイングの実現へと進化する保険ビジネスに挑む
損保ジャパンを核とするSOMPOグループの原点は、火災現場へ駆けつける「火消し屋」としての創業に遡る。リスクに即応し「世のため人のため」に尽くすDNAは、保険という仕組みを通じて事業化され、今日のパーパス経営の基盤となっている。1990年代には金融機関としていち早く環境領域へ踏み込み、サステナビリティを事業に組み込んできた点にも同社の先進性が表れる。
現在は、従来の損害保険(P&C)に加え、生命保険や介護・ヘルスケアを含む「ウェルビーイング」をもう一つの柱とし、事業ポートフォリオを再構築している。特に介護領域では、予防から相談、施設紹介に至るまで一貫したサービス提供を志向し、少子高齢化という社会課題の解決と事業成長の両立を図る。これは、保険が本来担ってきた「事後の補償」から「未然の支援・生活全体の質の向上」へと役割を拡張する試みでもある。
サステナビリティと事業戦略を一体で捉え、気候変動や人権、多様性といった複合課題への対応を経営の中核に据えるとともに、人材投資やエンゲージメント向上を通じて組織変革を進めている点も特徴的だ。同社の挑戦は、保険業の枠を超えた社会課題解決型ビジネスへの進化を示し、持続可能な社会の実現に向けた新たな方向性を提示するものとなるであろう。





