May 18, 2026
【リョービ】アルミダイカスト業界で挑戦を続ける

リョービグループは、「パーパス」という概念が今日の経営において一般的になる以前から企業理念を確立しており、その信条は何十年にもわたり事業の方向性を示してきた。
日本の大手ダイカスト企業リョービの企業理念「技術と信頼と挑戦で、健全で活力にみちた企業を築く。」は、顧客ニーズの把握、リスクを恐れない姿勢、そして単なる大手メーカーの下請けに留まらないイノベーションの文化を育んできた。
「『挑戦』を働く人々の指針とすることが非常に重要だと考えています」とリョービ社長の浦上彰氏は、経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。
その企業文化は、1943年にダイカスト製品の製造・販売会社として創業した同社の成長の道筋に影響を与えてきた。現在、同社は米国、メキシコ、英国、中国、タイにも生産拠点を展開している。
リョービが新規事業に乗り出した例として、精密な金型に合金を高圧で流し込むダイカスト技術を活かし、1960年代にはパワーツール、建築金物、釣具などの分野へ進出した。また、1990年前後に海外展開を開始した。

しかし、その後企業資源が分散することによる成長停滞の影響が出たため、主力である自動車部品などを製造するダイカスト事業に選択と集中を進める方針へと転換した。
「我々はコアコンピタンスに立ち返る決断をしました」と浦上氏は述べる。多角化による「コングロマリット・ディスカウント」、つまりグループ会社が多すぎることで経営効率や効果が低下し、全体の企業価値が各事業の合計よりも低くなる現象が起きたためだ。2024年12月時点で、ダイカスト事業が売上高合計の88%を占め、建築用品事業は4%、印刷機器事業は8%となっている。
自動車業界が電動化や自動化で大きく変革するなか、2025年3月、リョービはダイカスト専業メーカーとして日本で初めて超大型ダイカストマシン「ギガキャスト」を静岡県の工場に導入した。
同技術は、テスラが電気自動車(EV)の量産に導入したことで世界的に注目されている。巨大な車両部品を一体成形することで、従来の部品数を大幅に削減し、生産効率を高め、製品の軽量化による二酸化炭素(CO2)排出削減にも貢献する。
現在、中国のEVメーカーや米国、欧州、日本の大手自動車メーカーもこの技術を導入しつつある。
リョービは、超大型一体成形ダイカストによるシャシーやバッテリーケースなどの自動車部品の試作を行っている。
「ものづくりの新時代が到来するなかで、当社はダイカストのリーディングカンパニーとして挑戦を続け、持続的成長を実現してまいります」と浦上氏は自社ウェブサイトのトップメッセージで述べている。
リョービはギガキャスト技術を、量産の主力ではなく、高いダイカスト技術を示す試作のためのツールと位置付けている。現状では、超大型製品や機械の輸送・保守に時間とコストがかかるなど課題も残っている。
リョービはダイカスト市場に強い成長可能性を見込んでいる。2035年までの長期目標として、売上高4,500億円、経常利益270億円、ROE9.0%以上を掲げている。2024年12月期の実績は売上高2,933億円、経常利益116億円、ROEは4.4%だ。

ダイカストはアルミなどの非鉄金属を扱う。「アルミは鉄より軽く柔軟性があるため、多様な部品形状や機能の実現が可能です」と浦上氏はアルミの可能性について説明する。現在リョービは、シリンダーブロック、トランスミッションケース、サブフレーム、その他のシャシー部品やEV部品を製造しており、今後はダイカスト技術を活用し、これまで鋼板プレスで作られていた大型車体・シャシー部品の需要拡大を見込んでいる。
「さらに、アルミはリサイクル可能で持続可能です。だからこそダイカストが世界中で注目されています」と浦上氏は述べている。リョービはダイカストに「ADC12」というアルミ合金を使っており、これは世界中の自動車部品製造で広く使われている。その原料には、ラジエーターやエンジンなど、廃棄された自動車部品や建材をリサイクルしたものが使用される。
リョービによれば、リサイクルアルミニウムから合金を製造する場合、ボーキサイトから新たにバージンアルミニウムを作る際に必要なエネルギーのわずか3%程度しか必要とせず、さらにリサイクルは何度でも繰り返すことが可能だという。
リョービが炭素排出量削減のために取り組んでいる他の施策には、省エネ設備の導入、屋上の太陽光パネルや水力発電などの再生可能エネルギーによる電力調達、重油から天然ガスなどの低炭素燃料への転換、化石燃料から非化石エネルギーへの切り替えなどがある。
リョービは廃棄物リサイクル率を最低でも99%とする目標を掲げており、実際に2024年度には99.6%のリサイクル率を達成した。さらに厳格な廃棄物分別によって、廃棄物のさらなる削減に取り組んでいる。同社の他の環境活動は、工場近くの河川や海岸の清掃活動に社員やその家族が参加するなど、身近なところからも始まっている。
浦上氏は、新興国におけるさらなる自動車普及がアルミやダイカストの需要増につながり、日本国内での人口減少による自動車市場の縮小傾向を上回るプラス要因になると述べている。アルミ市場自体の好調な見通しも、アルミダイカストの楽観的な予測を裏付けるもう一つの理由だ。
将来的には、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって、ダイカストマシンの調整や、鋳造・検査・搬送などの工程の自動化を進め、業務効率化を図ることを期待しているという。
「DXは、コスト削減や製品開発から納品までのリードタイム短縮にも貢献するでしょう」と浦上氏は述べている。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

「挑戦」のDNAで自動車産業のサステナブル化に挑む
リョービの企業理念では「技術・信頼・挑戦」が事業活動の基盤とされている。アルミダイカストにおける日本のトップランナーとして確固たる地位を築いてきたリョービのコアコンピタンスが高い「技術」力と、顧客や社会との強固な「信頼」関係にあることは論を待たないが、「挑戦」が含まれている点が興味深い。この言葉が単なるお題目ではなく、会社のDNAそのものであることは、新規事業へ果敢に挑み、事業環境の変化を見極めて迅速に選択と集中の意思決定を行うことで発展を遂げてきた今日までの歴史が証明している。
主力事業である自動車向けダイカストは、サステナブルな社会との両立に向けた大変革期の真っただ中にある自動車産業にとって重要なピースである。欧州におけるELV指令の強化、電動化に伴う車体の軽量化ニーズが高まり続ける中で、リサイクル性に優れ軽くて丈夫なアルミという素材の存在感は一層高まるはずだ。長い歴史の中で培われてきたリョービの技術と信頼は強力なアドバンテージとなる一方で、自動車産業もEV新興勢力の台頭や様々な技術革新により大きく様変わりしており、リョービとしても新たな「挑戦」となるに違いない。厳しい競争の中でどの様に進化していくか、大きな期待が寄せられている。





