March 03, 2025
【サンリオエンターテイメント】「みんななかよく」の世界観を体現、収益もⅤ字回復
Contributing writer
企業にとって、理想と収益を同時に追求することは時に容易なことではない。ところがサンリオはその両方を達成しつつある。それも驚きの規模で。
「ハローキティ」のキャラクターで知られるサンリオは、企業ビジョンとして「One World, Connecting Smiles.」を掲げ、博愛的な理念を尊んでいる。一方で、直近の2024年3月期に過去最高益を上げ、株価は最高値に達している。市場価値はかつて目標として掲げた1兆円をはるかに超えている。
「今、非常に活気があり、勢いがある企業になっています」と、サンリオエンターテイメントの小巻亜矢社長は述べる。同社は、東京都多摩市のサンリオピューロランドと大分県のハーモニーランドを運営するサンリオの子会社だ。経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。
しかし、ここまでの道のりはサンリオにとって容易なものではなかった。2000年代の世界的なハローキティ人気が徐々に落ち着くなか、サンリオは2014年3月期をピークに2015年3月期以降は7年連続で減益を計上した。2020年には新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延し、キャラクターグッズストアにさらに打撃を与えた。2021年3月期には、39.6億円の純損失を計上した。
2020年、同社の創業者である辻信太郎氏は社長としての経営のバトンを孫の辻朋邦氏に渡した。小巻氏は前年にサンリオエンターテイメント代表取締役社長に就任した。サンリオは2025年3月期から始まる新しい中期経営計画を発表し、財務面での変動を抑えるために、人的資本の向上や適切な投資・戦略を通じてグローバル成長基盤を構築することを含む3本の矢を提示した。また、ハローキティ関連の売上に依存せず、他の魅力的なキャラクターを開発・育成することでIPポートフォリオを拡充し、ゲーム、バーチャルイベント、その他のデジタルサービスを通じた収益化の新しい施策を目指すとした。
財務面での浮き沈みを繰り返した後、辻社長は「たとえ成長の速度が緩やかになったとしても、急激に落ち込むようなことからはもう卒業しよう」と話したと小巻氏は語る。「そのためにいろいろな戦略を立て、今に至ります」
サンリオは、コロナによる店舗の一時休業からの損失から急速な回復を見せた。国内・海外からの観光客が大幅に増加し、2024年3月期にはサンリオの売上は前期比37.7%増の999億円、営業利益は103.5%増の269億円となった。この業績は株価とPBR(株価純資産倍率)を支え、多くの日本の上場企業がPBRを1.0倍以上に押し上げることに苦心している中、2025年2月17日時点で20倍を超えている。
小巻氏はまた、記録的な利益は同社の強さだけではなく、コロナの終息、海外観光客の回復、デジタルトランスフォーメーションの進展などの外部要因も影響したと辻氏は考えていると述べた。
小巻氏自身も現職に就く前に多くの苦難を経験した。1983年に新卒としてサンリオに入社し、家族の事情で退社した後、息子の事故死、離婚、がん治療を経験し、2014年にサンリオエンターテイメント顧問に就任した。
サンリオについて確実に言えるのは、同社の基盤となる強さはサンリオの企業理念「みんななかよく」への信念が根本を支えているということだ。企業理念として見慣れないかもしれないが、このフレーズはサンリオピューロランドでのパレードや歌舞伎風のミュージカルのテーマにもなっている言葉だ。これらのパフォーマンスでは、例えば「Miracle Gift Parade」では闇の女王が登場し、サンリオキャラクター達が幸せに過ごしているところに割って入る。しかし最終的には思いやりのあるキャラクター達の温かい心に触れ、友情が生まれる。
「もちろん私たちの思いは非常に強いです」と小巻氏は言う。「私たちは常に、何のためにビジネスをしているのか、今日何人のお客様を笑顔にできたか、このビジネスが何人の笑顔につながっているのか、という原点に立ち戻ります」と言い、サンリオではこのように人を笑顔にする時間を「サンリオ時間」と呼んでいると付け加えた。
サンリオの企業理念は、創業者が子供の頃に第二次世界大戦を体験したことに由来する。多くの人々が空襲で亡くなり子供をかばうようにして亡くなっている母親の光景を前に、辻氏は平和を願うようになったと小巻氏は話す。1960年に辻氏は事業を起こし、2年後にいちごのオリジナルのデザインを施した商品を作り、後に動物や他のキャラクターのデザインを増やしていった。
「辻はギフトを販売することで人と人を繋ぐ『ソーシャルコミュニケーションビジネス』なのだと言っていました」と小巻氏は話す。その後、サンリオはグリーティングカード事業を開始し、また映画、出版、レストラン運営などに事業を拡大した。国内経済が成熟し人々が物質的に満たされると、モノよりもコト(体験)に焦点を当てる時期だと考え、テーマパークを開業した。
1990年に開業したサンリオピューロランドは、現在、ハローキティ、マイメロディ、シナモロールなどのサンリオキャラクターのアトラクション、ライブショー、オリジナルグッズ、レストランを特徴としている。
2000年代初頭に海外でのハローキティの人気が予想外にブームとなり、サンリオのライセンス事業とグローバル市場への参入を促した。最初はアメリカ、次にドイツ、南米諸国、アジア諸国へと市場を拡大してきた。
「その意味では、ただ利益を追求したり他社を買収して会社を大きくしたりするのではなく、本当に『みんななかよく』というサンリオの企業理念を実現するために足りないピースは何かを考えています。その考え方が新規事業という形になりビジネスのターゲットが拡大していくことにつながっています」と小巻氏は述べた。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner
「みんななかよく」の理念が企業と社会の共益関係を創出する
「ちょっとした可愛いもの」のやり取りを通じて、人と人とが仲良く出来るような平和な世界を創りたい―ギフト商品を通じたソーシャル・コミュニケーション・ビジネスからサンリオの歴史は始まった。
その後、映画・出版事業の展開や、多くの魅力的なキャラクターの誕生を経て、現在では海外人気や推し活需要も捉えることでモノ消費・コト消費の両輪で成長を遂げ、今や時価総額1兆円を超える企業となったが、その原動力は「みんななかよく」という優しさと同時に創業者の強い意志を包含した企業理念であると感じた。企業価値の指標となっている「サンリオ時間」も、サンリオだからこそ提供できる価値が何であるかが明確であることの証左だ。
様々な社員の働き甲斐や働き方を重視されてきたのも、時代や価値観の変化を受けてのことだけではなく、社員の笑顔がお客様の笑顔へと連鎖することでサンリオ時間の増大に繋がるからであろう。
ビジネスとしては今後も新しいことへの挑戦を続け、進化していくであろうが、「みんななかよく」の理念は変わらない。サンリオのこれまでとこれからを熱く語られる小巻氏の姿から、インバウンド需要や推し活ブームによる一過性ではない、理念に根差したサンリオ固有の強さを感じた。