May 26, 2026
受賞シェフに手渡されるのは復興を目指す輪島塗の盾。

PHOTOS: NAOFUMI MIYAJIMA
ジャパンタイムズが主催する「Destination Restaurants」では毎年、表彰式で受賞者に店名と名前入りの盾を贈っている。今年は2024年元日に起きた能登半島地震への復興支援を兼ね、石川県金沢市に店を構える漆器店『能作』に受賞盾の制作を依頼した。
『能作』は安永9年(1780年)の創業以来、漆器の原材料となる漆そのものと石川県産の漆工芸品の販売・製造を行い、古くは加賀藩前田家や豪商に商品を納め、現在では世界的高級ブランドからの発注も担う、日本有数の漆器メーカーだ。また、能登半島地震で大打撃を被った輪島塗の復興に向けて、先陣を切って奮闘している存在でもある。
M7.6、輪島市でも最大震度7を観測した能登半島地震では輪島塗の工房や店舗も被害を受け、さらに輪島朝市周辺の火災により、12の事業所が焼失。材料や道具を失い、事業者の廃業も相次いだ。だが、輪島市で、また金沢市などの避難先で輪島塗の仕事を続ける人もまだまだいる。『能作』本店には、輪島塗をはじめとする被災した作家や職人から委託を受けた漆器類の販売コーナーも設けられている。そんな『能作』7代目当主、会長の岡能久に話を聞いた。


「私どもは『塗師屋』とも呼ばれる、いわゆる漆工芸品のプロデューサーでもあります。商品を作る際にデザインの方向性を決めたり、こういう塗りならこの塗師に、こういう蒔絵ならあの蒔絵師にと、その仕事にふさわしい職人さんを選んだりするのも私どもの役目です。輪島塗には器体となる木地作り、布を貼ったりする下地作り、さらに中塗り、上塗り、蒔絵や沈金などの加飾など、124の工程があります。その工程ごとに専門の職人が作業を請け負う分業制で、1から作ると最低でも6カ月はかかるんですよ」。
取材時の4月中旬の時点ではまだ板の上塗り前だったので、試作品で職人技の一端を見せてもらうことになった。案内された工房はなんと金沢市内にある仏壇店。
「ご依頼の文字はゴシック体。流れるような書を書くというより、レタリングに近いので、日頃、ご位牌などを手掛けて、文字が得意な職人さんにお願いしました」。そんな理由から、岡が指名したのは、明治15年(1882年)創業『匠楽 大竹仏壇製作所』4代目として仏壇仏具を製作し、蒔絵も学んだ伝統工芸士の大竹喜信だ。

輪島塗の板に紅殻漆で文字を書き、15分後に漆が半乾きになったところで金粉を蒔いていく。見ているだけで息が詰まるような繊細な作業だ。そこからまた乾かし、最後に呂色師によって、ピカピカに磨き上げられて完成する。
5月に東京都内で行われる授賞式には、食を通じて地方創生に携わるシェフたちの手元に、この美しい輪島塗の盾が手渡される。
能作
安永9年(1780年)、現在の石川県金沢市にあたる加賀国にて創業。初代、能登屋作太郎に始まり、当代である8代、岡能之に至るまで、県下の特産漆工業の原材料、漆の精製供給を主たる業務とし、240有余年の伝統を継承。金沢漆器、加賀蒔絵、輪島塗、山中塗などの漆芸品を扱う。





