August 13, 2026
【野村総合研究所】ポストSDGsを見据えた将来目標の議論を喚起する

持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限とされる2030年が近づくなか、野村総合研究所(NRI)は、日本と世界が次に何をすべきかに焦点を当てた全国的な議論を呼びかけている。SDGsの次なる国際目標の形成を見据え、NRIは今年、産官学の専門家に呼びかけ、日本の産業界が将来の課題解決にどのように貢献できるかを検討するBeyond 2030 Agenda研究会を立ち上げた。
現行目標の進捗が遅れていることへの懸念が高まる中、将来に向けてポストSDGsの目標をどのように設定すべきかについて、世界的な議論はすでに始まっている。国連が発表した2026年版SDGs報告書によると、139のSDGsターゲットのうち、「軌道に乗っている」または「緩やかに進捗している」ものは36%にとどまり、ほぼ半数は進捗が遅すぎ、15%は後退している。
「SDGsは壮大な目標を示していますが、人々はしばしば、それらの目標を自分ごととして捉えることに難しさを感じています」と、NRI未来創発センターの谷山智彦シニアチーフリサーチャーは述べた。「目標自体に加え、それを社会に実装する体制にもいくつか課題がありました」
2015年、すべての国連加盟国は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。その中心にあるのが17のゴールであり、各国が国際協力のもとで達成に向けて行動することを求めている。そこには、貧困の撲滅、保健や教育の向上、不平等の削減、気候変動の緩和、海洋生物の保全、サステナブルな経済成長の促進など、幅広い課題が含まれている。
これら多様な目標に対する世界の関心は、必ずしも均等に向けられてきたわけではない。「クリーンエネルギーや気候変動対策に関する目標は、ビジネスの力を活用して一定の進展を遂げましたが、その他の目標は、人や資本を動かすだけの勢いを十分に生み出せず、思うように進んでいません」と、NRIエネルギー産業コンサルティング部の磯谷允亨コンサルタントは述べた。
SDGsを見直す3つの観点を特定
現行のSDGsをどのように見直すべきかについて、最新の世界的な意見をより深く理解するため、NRIは2月、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連開発計画(UNDP)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)など、12の国際機関にヒアリングを行った。その結果、同研究所は、目標を見直すうえで修正が必要な観点として、「根本の思想」、「注目されるテーマ」、「社会への実装」を特定した。
「根本の思想」については、将来世代を含む長期的な目標を設定することが不可欠であるということ。「注目されるテーマ」については、この10年で人工知能(AI)などの新たな課題が浮上し、既存のテーマはより複雑なものになっているということ。最後に、目指す社会を実現するための確かな仕組みを構築する必要があり、それは地域や多様な視点の違いを超えて人々に機能するものでなければならないということだ。
「社会実装のローカライゼーション(現地座標への変換)は、人々が自らの状況に即して壮大なビジョンを捉え直し、一歩を踏み出して実行へとつなげるための重要な概念になるでしょう」と、NRI経営コンサルティング部の中田舞シニアコンサルタントは述べた。さらに「SDGs達成に向けた理想的なアプローチは、環境、経済、社会という3つの領域を融合させて解決することでした。しかし実際には、環境領域がグリーンエネルギーやビジネスと結びついたことで大きく先行し、社会領域が取り残されました」と指摘する。そのため、人々は改めて社会課題に取り組み、可能な解決策を探るべきだと考えるようになった。
社会課題を多面的にとらえることが必要
また、磯谷氏は、2030年までに開発目標の達成を目指す過程で、社会領域の課題がほとんど進展していないだけでなく、より広範な含意を持ち始めているとし、「社会領域の課題は私たちの置かれた様々な歴史的・地理的な文脈によって形成されるため、一つの側面だけで捉えられません」と語る。発展途上国もあれば、先進国もあるため、各国が採るべきアプローチは多様である。また、先進国の中でも、例えば米国のように格差の大きい国もあれば、北欧諸国のように格差が小さい国もあり、視点は異なるという。
多面的な社会課題の一例が「ケア」である。先進国では、ケアという概念は、急速に進む高齢化のなかで医療や高齢者介護の重要性が高まっていることと結びついている。一方、開発途上国では、「ケア」という言葉は男女間の不平等と結びつきやすい。女性や少女が子どもや高齢の親の無償での世話を担い、それが就業機会を抑制しているためである。こうした無償のケアや家事労働が社会経済システムを支えていることが注目され、その経済価値を可視化することの重要性が議論されている。
「ケアの新たな焦点は、『ケア』を単なる労働負担ではなく、人が尊厳と自主性を持って社会参加するための支援と捉え、自分・他者・地球のケアというより広い概念に拡大していることである」と中田氏は述べる。
さらに、Beyond 2030 Agendaにおいて、社会に関連する概念として新たに注目されているのが幸福やウェルビーイングだと磯谷氏は続ける。また、ウェルビーイングの概念を人間だけでなく、地球も含む概念へ拡張することで、社会アジェンダと環境アジェンダを接続して考えようとする動きも出てきているという。
現行のSDGs指標には、人々が自分の生活をどの程度幸せだと感じているかを測るような主観的指標は含まれていない。磯谷氏によると、経済協力開発機構(OECD)などの機関が個人の幸福度を測定する方法を研究しており、こうした指標はポストSDGsの目標に組み込まれる可能性が高いという。
もう一つの重要な社会課題は、世界の多くの地域で進む人口の高齢化である。世界的な人口をめぐる議論では、長らく人口爆発への警鐘が鳴らされてきたが、今後数十年の予測では、より多くの国で人口増加が徐々に減少へと転じることが示されている、と磯谷氏は話す。このテーマにはさまざまな論点がある。高齢者向けの医療・介護サービスに加え、予防医療、エイジズム、長寿を支えるリスキリングなどが含まれるという。
NRIの専門家たちはまた、近年、文化や人工知能(AI)の側面が社会問題に大きな影響を与え始めたことで、社会課題にはまったく新しい視点が生まれていると述べる。これらは現行のSDGsでは明確に言及されていなかったものである。
世界の専門家たちは、これを「オレンジエコノミー」と呼び、文化の重要性と経済への貢献に注目している。近年、彼らは文化を「グローバルな公共財」として認識し、文化が気候変動対策、貧困削減、ジェンダー平等、デジタル包摂など、幅広い持続可能な開発目標に貢献するうえで不可欠な役割を果たすと主張している、と中田氏は述べる。「経済や社会を動かす力としてだけでなく、人間らしく生きるための土台としての文化の価値にも注目が集まっています」と付け加えた。

ポストSDGsに向け、日本は何に貢献できるか

ポストSDGsのアジェンダに向けて幅広いテーマが浮上すると見込まれるなか、日本は世界にどのように貢献できるのだろうか。
NRIの専門家たちは、日本は技術力や、労働・介護分野の課題に取り組むためのプラットフォームや基盤を構築する能力などを通じて、複数の形で世界を支援できると話す。谷山氏は、日本が過疎地域の再生で得てきた経験も貴重な貢献になり得ると述べる。
現在、世界の専門家たちはポストSDGs時代に向け将来世代も考慮に入れた指標の検討を進めている。これはGDPに寄り過ぎた指標と意思決定を変えるものとして「Beyond GDP」と呼ばれている。最近の報告書では、専門家グループが、人々と地球のウェルビーイングを公平で包摂的かつ持続可能なものにするという目標に向け、22のテーマに基づく指標を提案した。
4月、NRIはBeyond 2030 Agendaに関する初のラウンドテーブルを開催した。今後も研究会を重ね、世界の潮流を共有するとともに、民間企業、有識者、中央官庁、地方自治体などと連携して新たな提案を策定し、今年度中に最終報告書をまとめることを目指している。「理念や概念の議論にとどまらず、いかに社会に実装するかまで見据えた日本発の提言を示したいと考えています」と谷山氏は述べた。






