September 25, 2026

【Ohtsu】父子二代が独学で拓く、水戸市のフレンチ。

ライター:寺尾妙子

コース3品め「石鯛 サザエ」。備長炭で皮目を炙った石鯛はほんのり温かいものの、完全に生。フレッシュなサザエや瓜と合わせた意欲作。
PHOTOS: TAKAO OHTA

各県、食を通じた観光誘致を行っているが、茨城県の取り組みは、なかなか気合が入っている。2020年から、食の権威や料理人、グルメ雑誌編集者などで構成された「茨城フードセレクション審査会」を立ち上げ、観光の目的地としてふさわしい「茨城至宝のレストラン」を選定している。その成果もあってか、日本料理やイタリア料理といったジャンルを超えたシェフたちが連携し、お互いを高め合う状況が生まれ、近年、ガストロノミー・スポットとして注目を浴びているのだ。

JR常磐線・水戸駅から徒歩15分の場所にある『Ohtsu(オオツ)』も2020年より「茨城至宝のレストラン」に選ばれているフレンチレストランだ。創業は1991年。オーナーシェフの大津高志がマダムの恵子と二人で始めた。現在はテーブル14席に個室を備えた高級店だが、以前はカジュアルなブラッスリーだった。その始まりは1983年。当時、35歳の高志が食品会社のバイヤーを辞め、趣味の食べ歩きが高じて料理人になったのがきっかけだった。

「そば屋でもなんでもよかったのですが、フランス料理がおしゃれだね、ということで妻の実家がある日立市でブラッスリーを始めました。修業? 近所の知人が営む洋食店で数ヶ月、手伝わせてもらっただけですね。店を開けてからフランス料理の基礎が学べる本を買って勉強しました」と高志は語る。

ほぼ未経験で始めた店だったが、店は軌道に乗って、ついに1991年、現在の水戸市に場所を移して『Ohtsu』を開く。コンセプトは首都圏に出なくても、一流のフランス料理に触れられる店だった。よい食材を全国から取り寄せ、フォアグラやキャビアなど、高級食材も扱うようになった。

「天然鰻」は20代の川漁師が那珂川で取った鰻を備長炭で炭火焼きに。鰻のブイヨンと赤ワインのソース添え。

「平目 ちち茸 北寄貝」。活かった状態の平目の皮目だけをポワレし、身はほぼ生。ヴァン・ジョーヌのソース添え。

「ところが、トリュフをどうやって調理すればいいかわからなかったんです。その頃は今のようにインターネットもありません。考えた末、東京・有楽町にある『アピシウス』に電話をかけて、当時の料理長・高橋徳男さんに使い方を教えてもらいました。面識もないのに、丁寧に教えていただきました」と高志は語る。

その後も独学でフランス料理と向き合った結果、店は水戸市内では知られた店となっていく。

そんな折、2014年に次男の高彬が入店する。現在はスーシェフを務める高彬も父と同じく、フランス料理店での修業経験はない。

「東京の大学を中退して、地元のピザ店でアルバイトをしていた頃に『Ohtsu』で桜エビのパスタを食べて、こんなうまい出汁、どうすればできるんだ? と興味をもったんです。ラングスティーヌの出汁だったのですが、そこから父の下で働き始めました」と高彬は料理人になった経緯を語る。

「黒鮑」。大津自ら漁師の家に捕れたてを取りに行った黒鮑は蒸して、鮑や生ハム、昆布の出汁を使ったソース添え。

そんな高彬に大きな転機が訪れる。2022年に若手料理人の登竜門として知られる料理人のコンテスト「RED U-35 2022 」で「BRONZE EGG」受賞したのだ。

「意識がガラリと変わりましたね。そのあたりから地元の食材を本格的に意識し始めました」と高彬は言う。

加えて今年、『ジャパンタイムズ』が主催するレストラン・アワード「Destination Restaurants」を受賞したことで、さらに食材の選び方が変わった。3年前に「The Destination Restaurant of the year 2023」を受賞した福島県のイノベーティブ・レストラン『ハギ』オーナーシェフ、萩春朋に「(歴代の)『Destination Restaurants』受賞者で、輸入キャビアを使っている店はないよ」と言われ、ハッとしたという。以来、昼夜共に¥22,000と¥33,000のコースに登場する県産食材の比率は限りなく100%に近くなった。

茨城県 (フレンチ)
Ohtsu
茨城県水戸市白梅1-5-4
Tel: 029-226-8502
https://visit.ibarakiguide.jp/en/dining/53709/

そもそも、茨城県は首都圏に食材を供給する一大産地。野菜も肉も新鮮で質の高いものが手に入る。さらに春に採った山菜の酢漬けや常磐沖のイワシで作ったアンチョビなどが風味を添える。『Ohtsu』の料理は創業以来、変化し続けているが、ここ数年でもっとも変わったものといえば、魚料理だろう。地元の漁師との絆が深まったことで、創造の幅が広がったのだ。

「以前は店で使う分だけを買っていましたが、今は漁師さんが持ってきた魚は全部買います。それが信頼につながるので。営業で使いきれない分で新しい料理の試作をするんです。その日々の積み重ねは大きいですね」と高彬は目を輝かせる。

常磐の魚はほかの地域の魚とは性質が異なる。普通の火入れでは、やわらかくなりすぎるため、活かった状態でほんの少しだけ火を入れて、ギリギリ生ではない程度に仕上げるという結論にたどり着いた。備長炭で皮目だけを炙った石鯛は、言うなれば、ほんのり温かなカルパッチョ。しっとりした肌とほどよく溶けた脂の具合が、新しいおいしさを生む。皮目だけをフライパンでポワレした平目も、ほとんど生。どちらも、従来のフランス料理ではあまり見かけない『Ohtsu』ならではの魚料理だ。

誰かに習ったわけではない。親子二人、手探りでたどり着いた、ここだけの食材のセレクション、ここだけの調理法。それらは確実に、茨城県という豊かな土地と結びついている。

大津高志/大津高彬

左/父の大津高志。1948年茨城県水戸市生まれ。食品会社のバイヤーから35歳で独学で料理人に。1983年に日立市でブラッスリーを開業。1991年、水戸市で『Ohtsu』をオープン。右/息子の高彬。1990年水戸市生まれ。2014年『Ohtsu』入店。若手料理人の登竜門『RED U-35 2022 』の「BRONZE EGG」受賞。

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