April 06, 2026

【アイスタイル】蓄積した消費者データと中立性で化粧品業界のプラットフォームを確立

Hiroko Nakata Contributing writer

Istyle Director Kei Sugawara | cosufi

アイスタイルは、長年にわたり大手企業の影響を強く受けた日本の化粧品業界において、挑戦者として歩んできた企業だ。

以前の化粧品市場は、大手化粧品メーカーが大きなシェアを占め、テレビCMを頻繁に放映することでブランド力を確立していた。各社は数百アイテムに及ぶブランドを展開し、特定の販売チャネル向けに流通させていた。その結果、消費者は複数の店舗を実際に訪れ、商品を個別に比較しなければならない状況だった。

「化粧品は消費財であるにもかかわらず、業界は消費者不在だったのです」。

そう語るのは、アイスタイルの取締役副会長兼CFOである菅原敬氏だ。経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

「もし消費者がインターネット上で化粧品のユーザーレビューを書けば、『大手メーカーの商品が売れて、それ以外は売れない』という産業構造そのものを変え、最終的には公平な競争環境になるのではないかと考えました。それが、会社を立ち上げた理由です」。

口コミをもとに商品情報を提供する

菅原氏は、アイスタイルが1999年に設立された際の創業メンバーの一人である。インターネットが人々の日常生活に影響を与え始めた頃だった。

化粧品業界は、メイクアップ、スキンケア、ヘアケアといった製品カテゴリーから成り、高級ブランドを扱う百貨店、特定ブランドを扱うボランタリーチェーン店、手頃な価格帯の商品を扱うドラッグストアやコンビニエンスストアなど、多様な販売チャネルが存在してきた。

アイスタイルが創業初年度に手がけたのは、「アットコスメ(@cosme)」というインターネット上のポータルサイトの構築だった。ユーザーによる口コミをもとに、使用感や効果を評価した商品情報やランキングを提供する仕組みである。こうして蓄積されたデータやユーザートラフィック(通信量)は、後にメーカー向けのマーケティング支援サービスへと発展した。さらに同社は化粧品通販サイトや店舗も立ち上げ、消費者の購買データを蓄積し、その後のマーケティングリサーチやコンサルティング事業にもつなげていった。

当初はスタートアップ企業だったアイスタイルは、現在では日本最大級の化粧品・美容プラットフォームを運営する企業へと成長している。ビッグデータを活用する同サービスの月間アクティブユーザー数は1,600万人を超える。2025年6月期には、売上高688億円、営業利益31億6,000万円を記録し、従業員数は1,210名。国内に36店舗、海外に4店舗を構え、上海、香港、台湾、韓国、シンガポールなどアジア各地で事業を拡大している。

“Our success in business is due to the trust we’ve built,” Sugawara said. | Cosufi

初の実店舗展開が大きな反響を呼ぶ

同社の急成長を加速させた転機の一つが、2007年にルミネエスト新宿に初の実店舗「アットコスメストア(@cosme STORE)」を展開したことだ。当時、新規参入企業が化粧品店を開くのは容易ではなかった。保守的な市場だったため参入障壁が存在していたからだ。しかし時間をかけてその壁を乗り越え、大手ブランドの商品を取り扱う体制を整えることに成功した。

低価格帯から高価格帯まで一つの店舗で商品を比較・購入できることは化粧品ユーザーにとってまったく新しい体験であり、大きな反響を呼んだ。店内はカテゴリーごとに商品が陳列され、それぞれにランキングが設けられている。来店客は実際に化粧品を試すこともできる。この店舗では初月から売上が急増し、その人気が取り扱いブランド数の拡大にもつながった。

信頼を築く仕組みをつくる

こうした事業活動の根底にあるのが、アイスタイルのビジョン「生活者中心の市場の創造」である。公正中立なランキングを実現するため、同社は厳格な社内ガイドラインを設けている。消費者レビューのデータベースに基づき、非公開のアルゴリズムによってランキングは決定され、社内のマーケティング部門や営業部門からも遮断されている。広告掲載の状況にも影響を受けない仕組みだ。

また、24時間体制で消費者のコメントをチェックし、不正行為を防止している。レビュアーの個人認証を行い、「購入品」か「モニター・プレゼント」なのかを明示。宣伝目的や誹謗中傷と判断されたレビューは削除される。

「私たちの事業は、信頼の貯金で成り立っていると考えています。しかし、信頼は一度の失敗で簡単に崩れてしまう」。菅原氏はそう強調する。

Cosufi

常に新しい取り組みに挑戦する

新たな取り組みとして、同社は昨年11月、表参道・原宿エリアで「Tokyo Beauty Week」を開催した。東京における成熟したファッション・美容分野に共存する多様なトレンドの魅力を発信し、消費者、クリエイター、ブランドの交流を促すイベントだ。約50ブランドが参加し、肌診断やパーソナルカラー診断の体験を提供した。

「東京のビューティー・トレンドは非常に幅が広く、他にはない東京の特徴です。この流れが今後10年、20年と続き、参加するステークホルダーも増えていけば、良い結果につながると確信しています」。

さらに社会貢献活動の一環として、アイスタイルの創業メンバーであり取締役の山田メユミ氏は化粧品・日用品メーカーと連携し、品質に問題がない余剰品を経済的に困難なひとり親世帯へ提供するプロジェクトも実施している。これまでに約6万世帯に商品を届けてきた。

菅原氏は、10年後もスタートアップの精神を持ち続けたいと語る。

「ゼロから新しい取り組みを生み出し続けることが大切だと思っています。常に新しいことに挑戦し、アップグレードしていかなければと考えています」。

そして、こう締めくくった。「創業メンバーですら想像しなかったような新しい事業が大きくなっていく。そのような会社に成長を遂げたら、これ以上嬉しいことはありません」。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

消費者起点の「信頼」を核に、産業構造の変革と持続的価値創造を実現する

消費者不在とされてきた化粧品業界に対し、インターネットを活用した「消費者の評価」という公正な競争軸を導入する挑戦から同社の歴史は始まった。ウェブプラットフォームを起点に広告、ECへと事業を拡張し、さらに保守的な業界構造に革命を起こすべくリアル店舗出店という手段で踏み込み、流通の分断を接続してきた点にフロンティアとしての凄みがある。

現在は、消費者とメーカーの間に立つ「中立的なエージェント」として「信頼」を事業の核に据え、ユーザーの具体的な「アクション総数」をKPIとすることで、エンゲージメントの“量”ではなく“質”を追求する経営へと昇華している。加えて、ペイフォワードの精神に基づく中小メーカー支援や、「コスメバンク」による社会貢献、「東京ビューティーウィーク」の開催など、業界全体の長期的な発展を志向する取り組みは、同社が単なる事業者ではなく産業全体の持続性を高める存在であることを示すものだ。人的資本の観点でも、女性活躍の推進とともに上位役職への登用という課題に向き合いながら組織進化を図る。

創業家から次世代へ権限移譲を進めていく中で、新たな価値提供を生み出し続けていくには、Keep being Start-upの精神を持ち続けることが重要だと菅原氏は力強く語る。産業の在り方そのものを問い直すアイスタイル社の挑戦が、業種を問わず新たな価値創造の方向性を示すものになるであろう。

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