November 28, 2025

【ノンナ・ニェッタ】茨城県の食を盛り上げる手作り志向のイタリアン。

ライター:寺尾妙子

「日本のポルチーニ」と呼ばれるアカヤマドリダケのリゾット。モッツァレラを作った際に残るホエーを出汁代わりに使って炊いた。
PHOTOS: TAKAO OHTA

「Destination Restaurants」では毎年のように、首都圏にあるがゆえに、かえって見逃されてしまう店が選ばれている。電車や高速バスで東京駅から1時間半程度で行ける茨城県つくば市にあるイタリア料理店『ノンナ・ニェッタ』もそうした一軒だ。農村が広がる地域を1960年代から開発し誕生した筑波研究学園都市として名を馳せるつくば市は、日本百名山に数えられる筑波山の周囲に大学や公的な研究機関が多数置かれる街だ。また、同市を含め、茨城県は野菜、肉、魚介などを首都圏に供給する食材の生産地として、非常に重要な位置を占めている。ただガストロノミーという点においては印象が弱い地域であった。だが、そんな状況が変わりつつある。

ここ数年、日本料理やフランス料理、中国料理など、さまざまなジャンルで活躍するシェフたちが連携し、食材や技術に関する情報を交換したり、勉強会を行うなど、ガストロノミーへの意識を急速に高めているのだ。『ノンナ・ニェッタ』オーナーシェフ、川村憲二はその中心人物である。

茨城県(イタリアン)
ノンナ・ニェッタ
茨城県つくば市並木3-26-28
Instagram: @nonna_nietta_

川村は1978年、つくば市に隣接する土浦市で生まれ、都内のイタリア料理店を経て、28歳のときに渡伊。プーリアをはじめナポリ、カラブリア、ボローニャ、ピエモンテなどのレストランで6年間、腕を磨き、2021年に『ノンナ・ニェッタ』をオープン。「ニェッタおばあちゃん」を意味する店名は、イタリア時代に出会った妻の祖母の名前に由来する。住宅街に佇む一軒家は、まるでイタリアの田舎家のよう。前庭にはタイムやローズマリーなど、ハーブが植えられ、テーブル6席の店内は妻の実家から運ばれた家具をはじめ、窓枠やリネンに至るまでイタリア製のものが並ぶ。

だが、もっともイタリアらしいのは「地元の食材をできるだけ手作りで」というシェフの料理哲学かもしれない。コース料理(¥16,500)は前菜からデザートまで11皿。川村の実家で育てたナスやズッキーニをはじめ、茨城産の野菜、常陸牛や銘柄豚「常陸の輝き」、「常陸国天然まがも」などの肉類、茨城沖や霞ヶ浦で獲れる海の幸など県産食材をふんだんに盛り込み、登場するチーズやハムはすべて手作り。また、チーズを作る際に大量に出るホエーを出汁代わりに使い、独自の旨みを生み出す手法にもシェフのアイデアが光る。こんな独創的なレストランが今、県内に何軒も出現している茨城県は、ガストロノミー・ツアーの新たな目的地として注目される。

川村憲二(かわむら けんじ)

1978年、茨城県土浦市生まれ。東京都内で大学在学中、イタリア料理店でのアルバイトを皮切りに料理の道へ。2007年渡伊、各地で郷土料理を学び、2014年に帰国。東京都文京区の熟成肉店と併設レストランなどを経て、2020年より、つくば市で『ノンナ・ニェッタ』の開業準備。自ら内装も手がける。2021年3月同店オープン。地元のシェフたちと料理ジャンルを超えた交流を深め、茨城県の食シーンを盛り上げている。

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