October 22, 2021

【岩附 由香】チョコレートから問題提起を。児童労働問題に取り組む。

ライター:塚田有那

普段何気なく買っているチョコレートが、実はどこかの国の子どもたちの人権を搾取しているかもしれないーー。そうした事実を社会に伝え、児童労働のない未来を目指して国際的に活動する認定NPO法人ACE。代表理事を務める岩附由香は、自身がアメリカ留学時代に旅したメキシコで児童労働の現状に直面したことをきっかけに、長らく児童労働の問題に取り組んできたひとりだ。「児童労働は、開発途上国や貧困国だけの問題ではなく、私たち自身の問題でもある」と岩附は語る。

「その問題を強く認識したのは2002年の日韓FIFAワールドカップの頃でした。その頃、サッカーボールをつくっているのがインドの子どもたちだと知ったんです。あるインドの少女が記者会見を開き、児童労働の現状を訴えたニュースにおいて、『不当な労働搾取によってつくられたサッカーボールを買わないでほしい』という彼女のスピーチを聞いて、日本国内の消費活動と児童労働とのつながりをより強く意識するようになりました」。

1997年、大阪大学大学院在学中に「児童労働に反対するグローバルマーチ」を主催したことをきっかけに「ACE」を発足させた。2019年にはG20サミット開催にあたってC20の議長を務めた。 | 撮影/鷲崎浩太郎

岩附 由香

認定NPO法人ACE代表。「児童労働ネットワーク」事務局長などをはじめ、児童労働問題に取り組んでいる。2017年アルゼンチンでの第4回児童労働世界会議で発表を行うなど、国際的にアドボカシー活動に注力する。

そこで岩附たちは、日本国内でも特に関心が集まりやすいチョコレートとコットンの産業に焦点を絞り、各国の調査を進めていった。世界有数のカカオの生産地であるガーナやコットンの産地であるインドの状況を調査し、生産ルートや現地での労働環境を把握したうえで、現在は現地の子どもたちの就学支援などを行っている。またそうした支援活動のみならず、国内外の企業や政府に働きかけ、児童労働を生まないための仕組みづくりに奔走している。

「私たちのようなNGOやNPOは、産業のありかた自体を変えることはできません。そこでさまざまな企業に働きかけ、企業からの寄付金を集めたり、ACEが支援した地域のカカオを原料として使用してもらったりするなどの取り組みを進めています」。

ACEではインドのコットン製造やガーナのカカオ生産の労働環境を調査するとともに、現地の子供たちの就学支援を行っている。 | 写真提供/ACE

 最近では大手の菓子メーカーから高級チョコレートブランドまで、多様な企業がACEのもとに相談が来るようになったとのことだが、約20年前にACEの活動を始めた頃は相手にされないことも多かったという。

「これまでは、どこまでが企業の責任範囲になるかの定義が難しかったんです。自社の労働環境に関しては責務があっても、その委託先や、さらに先の原料生産者にまで一企業が責任を追うべきかどうかは曖昧なままでした。しかし、2011年に国連が『ビジネスと人権に関する始動原則』を定めたことで、あらゆる人権を尊重することが企業の責務であると明示されたんです。それ以来どんどんと風向きが変わり、EU各国で労働と人権に関する法律が制定されたことなども加味して、企業の方針が変わっていきました。国際的なマーケットを持つ企業ほど、人権の問題にも積極的に取り組み始めていると思いますね」。

日本に輸入されるカカオ豆の約7割が生産されるガーナで、教育を支援する「スマイル・ガーナ・プロジェクト」を2009年から実施している。 | 写真提供/ACE

 国連がSDGsを発表してから世界的にも環境や人権への意識が変わったように、トップダウンの政策決定によって物事が変化することは多々ある。岩附たちは2008年のG8サミット、そして2019年のG20サミットなどを通じて、政策提言につながるアドボカシー活動も行ってきた。

「2019年のG20では、市民社会の声を届けるエンゲージメント・グループであるC20のグループ議長も務めました。G20にはとても多くの議題があるため、児童労働がメインテーマになることはほとんどありません。そうしたなかで、いかに権利を侵害されている人々の声を届けられるかが私たちの課題です。そこでG20サミット開催時期に行われる各国の大臣会合の際には、会議終了後にディナーイベントを開催し、厳しい労働環境で働く子どもたちの動画を見せたり、各国の労働問題への取り組みについてヒアリングをしたりするなどして、当事者団体の声を政策決定者に届ける活動をしました。今後の政策のなかに『児童労働』というキーワードが言及されるか否かでその後の企業への働きかけにも大きく影響するので、この活動はとても重要なものだったと思っています。今後も政策や企業に対して働きかけていきますが、同時に消費者である人々にも、自分の日々の消費と児童労働がつながることを知ってもらえるような教育や啓発活動を行っています。少しずつ皆がこの問題に気が付き、モノを買うときの選択の一助になれば、状況が変わっていくと信じています」。

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