October 05, 2021
星空舞の誕生まで〜鳥取県が歩んだ30年の軌跡
鳥取県は日本一人口の少ない県として知られ、豊かな自然に恵まれている。空気が澄んでいるため、どの市町村からでも天の川を見ることができる。これが「星」に「舞」と「米」をかけた「星空舞」という鳥取県産の新ブランド米の命名の由来だ。
星空舞は、つややかで甘みがあり、他の米に比べてしっかりとした食感で、粘り気が適度にあり一粒一粒を味わうことができる。炊きあがると水分を多く含むので、冷めてもパサパサと硬くなりにくい。農家からすると、夏の暑さに強いという点も大きなメリットだ。
消費者にとっては、新しい米の選択肢が増えることは歓迎すべきことだが、米どころの道府県のブランドがすでに数多くある中で、鳥取県が新しく開発したブランド米を、販売することは容易ではない。Japan Times Satoyama推進コンソーシアムでは、9月10日に鳥取県農業試験場作物研究室の高木瑞記麿室長と中村広樹主任研究員にオンラインインタビューを行い、この米の開発の理由と経緯について話を聞いた。
研究開発が始まったのは30年以上前、前室長の橋本俊司氏が、農家に生まれて米作りの苦労を見てきた経験から、強くておいしい新しい米を作ろうと思い立ったことに始まる。高木氏によると、気温が高すぎると米が変色する場合があり、台風などの強風により稲が倒れてしまうことがあるという。また、いもち病というカビの病気も米作りにとって大敵だ。
新しいブランド米の開発は、既存の品種を掛け合わせることから始まる。鳥取県にはすでに10年以上前から「ゆめそらら」という自県育成の米があった。ゆめそららを作った目的は、全国的に有名なブランド米であるコシヒカリを改良し、丈を短くすることで倒れにくくすることだったと中村氏は説明した。しかし、ゆめそららは暑さやいもち病に弱かった。
そこで、ゆめそららをササニシキBL1と1回だけでなく5回も交配することで、ついに安定した、満足のいく品種を開発することができた。「具体的には、ゆめそららとササニシキを交配し、その結果にまたゆめそららを交配し、それを5回繰り返しました」と中村氏。
しかし、新しいブランド米づくりはこれで終わりではなく、実際に田植えをして、その品質が安定しているかどうかを確認するという最も重要な最終段階がある。「星空舞も品種育成の段階には、稲を1本ずつ手で植えて、1本1本を観察できるようにしなければならないのです。田植え機ではこれができない。複数の苗を束にして植えてしまうので、1本1本の苗を見分けることができないのです」と中村氏は説明する。
30年の歳月をかけた星空舞の栽培は、4年前にわずか5ヘクタールの土地で始まった。今では1,254ヘクタール、1,988軒の農家で生産されており、これまでのところ、農家からは高い評価を得ている。高木氏は、星空舞は他の品種と収穫時期が若干異なるため、多くの田を収穫する、人手がない農家には助かると説明する。「このため、複数の品種を栽培する農家も多く、いもち病などのリスクを分散させることもできます」と高木氏。星空舞は、夏の暑さの影響をあまり受けず、安定した品質を保つことができるため、農家にとって価格が安定するというメリットもある。
ここ数年、「星空舞」ブランド化推進協議会が設立され、県内の3つの農協では米作りの研究会が発足し、農家同士の交流が進んでいる。このように星空舞の発売は、鳥取県の米業界全体の活性化に一役買っている。また、星空舞は、東京、大阪、福岡などの大都市をはじめ、県外にもその市場を広げている。