December 22, 2022
地方で頑張るブドウ園、気候変動の影響に直面
日本はブドウやワインの主要生産国として認知されていないかもしれないが、実際は日本列島全域にブドウ園がある。
Japan Times Satoyama推進コンソーシアム主催のオンライン討論会『第19回Satoyamaカフェ』は、大きく特性の異なる3地域のワイナリーからパネリストを招き、ブドウ栽培とワイン醸造を持続可能なビジネスにするための取り組みや気候変動への対応について議論した。
栃木県にあるココ・ファーム・ワイナリーは1950年代に中学校特殊学級の教師が野外作業は知的障害をもつ生徒たちのやる気を引き出し喜びを与えるだろうと期待して、生徒らと一緒に開墾したブドウ畑が原点だ。約10年後、義務教育を終えた知的障害者のための施設『こころみ学園』が設立された。本施設は園生がブドウ園で作業することを目的としている。それから約20年後にココ・ファーム・ワイナリーが開業し、こころみ学園から買い上げたブドウを(ワイン造りに)使用している。
前出の教師の娘さんでココ・ファーム・ワイナリー現専務取締役の池上知恵子さんは話した:「働いている人たちから仕事を奪いたくないので除草剤は撒きません。そのため、草花が生い茂り、虫や鳥が飛び回るので、そうした生き物を追い払うという新しい仕事が生まれます」。“自然に逆らわず、人間が自然の一部だと認識する”という池上さんらのやり方はワイン造りにも取り入れられている。「私たちは野生酵母を中心に使っているのですが、発酵の過程に伴い異なる種類の酵母が活性化して、個々のワインに独自の風味が生まれます」と、池上さんは話した。
サンマモルワイナリーは青森県で初めてブドウ栽培からワイン醸造までを手掛けた会社だった。ワイナリーの所在地・むつ市は本州最北端に位置し、(東北地方の)太平洋側に吹く「やませ」と呼ばれる冷涼な北東風が農作物に冷害をもたらすことがある。しかしながら、サンマモルワイナリーのブドウ畑は、恐山連山の南側に面しており、山々がやませを遮断してくれるのだという。
日本ワインコンクールで賞を受賞し地元の新聞に取り上げられると、地元でワインが売れ始め認知度が上がった。それだけでなく、後継者不足に悩む生産者や果物そのものとしての販売は困難でもワイン用ならば生産可能な農家がサンマモルワイナリーの支援を求めるようになった。「挑戦せずに手伝えないとは言いたくありません」と、サンマモルワイナリーの北村良久代表取締役社長は話した。「近隣の畜産農家が人手不足のせいで農場全体を運営できなくなり、施設に空きが出ていたので、私たちは現在、畜産業にも従事しています」と、北村氏は話した上で、畜産業界の将来のためには蓄積されたノウハウを誰かが伝えていかなければならないと強く主張した。
広島県にあるワイナリー・瀬戸内醸造所もまた、地元住民と共に地域の課題を解決できるワイン造りを目指している。その一例として、瀬戸内醸造所はお盆のお供え専用として生産され、お盆が過ぎると売れ残りとして廃棄されていた地元産のブドウを買い上げている。「私たちは今年4月に開業した醸造棟の壁に焼杉を使いました。焼杉は近隣の沿岸地域の住宅で使われてきた伝統的な建材で、私たちはそれを保護したかったのです」と、瀬戸内醸造所の太田裕也代表取締役社長は話した。
太田氏らは売店として使用するために江戸時代に建てられた古民家の改修も行った。太田氏らは地元のブドウ農家数ヵ所で栽培されたブドウをワインの原料に用いたり、地元産のリンゴを買い取ってリンゴ酒(シードル)を製造したりしているのに加え、併設のレストランでは地域の農家の野菜を用いた料理を提供している。
これら3つのワイナリーは、異なる地方にありながら、いずれも気候変動と異常気象の影響に直面している。ココ・ファーム・ワイナリーは2019年、ひょう被害に遭い、サンマモルワイナリーはむつ市に甚大な被害をもたらした未曽有の豪雨を経験した。気候変動に伴い、両ワイナリーはそれに対応するべく、栽培するブドウの品種研究や変更に取り組み続けている。瀬戸内醸造所は再生可能エネルギーへの移行を図ると共に、レストランはごみゼロの達成を目指している。地域とビジネスの両方を持続可能にするための彼らの取り組みは続いてくだろう。