February 13, 2023

さかうえ、「里山牛」で持続可能農業を支援

株式会社さかうえ 代表取締役 坂上隆氏| 株式会社さかうえ

農業法人の株式会社さかうえは、ジャパンタイムズが主催する「サステナブルジャパンアワード2022」で優秀賞を受賞した。黒毛和牛を耕作放棄地で放牧し、自給飼料で飼育していることなど、地域資源を最大限活用していることが評価された。

鹿児島県志布志市で1995年に創業したさかうえは、2019年に黒毛和牛の飼育を開始した。放牧地に生える草やサイレージ(飼料牧草)などの自給飼料で牛を飼育し、排泄物を堆肥化して農作物の栽培に利用する。牧草で育てた牛の、いわゆる「グラスフェッドビーフ」は、輸入穀物の価格高騰や一部の国での食料不足問題に直面する「グレインフェッドビーフ」の代替品としても有望視される。

「国産のグラスフェッドビーフはまだ一般的でなく、日本の消費者は少し臭みのある硬い肉を想像する傾向がある。黒毛和牛を牧草で飼育して肉を販売するというビジネスモデルは、かなり新しいものだった」。代表取締役の坂上隆氏は、プロジェクト開始当時をこう振り返る。さらに、同社は既存の流通システムを使わなかった。「新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)初期に肉の価格が下がった。従来のやり方で売っても意味はないと考え、オンラインで消費者に直接販売することにした。パンデミック中であり、それを試す時間もあった」。

坂上氏は、農業と畜産業は基本的に2つの点でその他産業と異なるという。1つ目は命を扱う産業だということ。もう1つは生活の場が生産の場でもあることだ。「アパレルメーカー(の従業員)は工場に住まないが、農家は農地のすぐそばに家があるのが普通だ。工場は移転できても農地は動かせない」と、農業が地域密着型になりやすい理由を指摘する。

「私の両親も農業をやっていた。農地を買う余裕がないときは、地域の誰かが土地を貸してくれた」。しかし、時代は変わり農家は減っている。坂上氏は「未利用の農地が増えている。(事業で)地域の課題を解決し、既存資源を生かす形で恩返しをしたかった」と話す。耕作放棄地は森と村の境目に位置する「里山」にあることが多い。さかうえは、この自然環境に恵まれアクセスも容易な里山で育った牛を「里山牛」と名付けた。

里山牛を使ったローストビーフ|株式会社さかうえ

命名のもう一つの理由は、「里山」が日本独特の概念だということだ。「里山を表す言葉は英語にはない」と坂上氏はいう。営業部長の中川昌聡氏が続ける。「(里山の概念は)ユニークなだけでなく、外国人が魅力を感じる『日本らしさ』でもある。訪日外国人観光客向けのパッケージツアーを扱う旅行会社に勤務していたとき、観光地よりも日本の田舎、まさに里山のような風景を見たいというお客さんが多かった」。里山牛のネーミングは、そういった人たちの興味を引く可能性があるという。

時代が変われば、何をどのように、誰に売るかも変わる。現在の課題は、将来は課題ではなくなっているかもしれない。農地不足は過去の問題だ。消費者は量や生産性よりも、持続可能で健康的な選択肢を求めている。「環境と状況の変化に常識的に適応し、社会に新しいものを提供していく。それに取り組むことに当社の価値はある」と坂上氏は話す。

「哲学、環境、経済の3つの観点から最適解を探す必要がある。企業として何をやりたいかの信念を持ち、自然や環境にも配慮しなければならない。ただ、そこに経済性がなければ人を動かせない。自分たちが正しいと思うからといって、3つのうちどれか1つを、ほかの2つに優先させるべきではない」。坂上氏はこう語り、3つの概念(哲学、環境、経済)のバランスが最適化されたとき、事業は真の意味で持続可能になると説明した。

里山牛は持続可能事業の最適解であり、地域貢献、耕作放棄土地の有効利用を含む環境保全、自然で持続可能な食べ物に関心のある消費者にアプローチするマーケティング手法を組み合わせた結果だ。しかし、「最適なバランスは常に変化している。変化を見逃さず、最適なバランスを常に追求する必要がある」という。

さかうえの企業理念は社員一人ひとりに浸透している。社員の半数は30代以下と若く、おそらくその多くが、農業は単に食べ物を作るだけではないという同社の先見性に惹かれた人たちだ。さかうえは今年、志布志市と連携し、農業分野の人材育成をさらに進めていく。「社会の変わりゆくニーズに対応する持続可能な産業へと、農業の発展をめざす。われわれの考えに共感する人を増やしたい」と坂上氏は語った。

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