July 21, 2023
里山体験で地方活性化、「SATOYAMA EXPERIENCE」
山田拓さんは夫婦で世界一周旅行から帰国後の2007年、岐阜県飛騨古川でツアー会社の株式会社美ら地球(ちゅらぼし)を立ち上げた。旅先では観光地をめぐるだけでなく、地元の人と交わりそこでしかできないアクティビティに挑戦するなど、その土地の暮らしに触れる体験を楽しんだ。それがあるからこそ、「ここを訪れる人に、私たちが旅で得たのと同じような感動を味わってもらえるような体験を提供したい」と話す。
山田さんがCEOを務める美ら地球は「SATOYAMA EXPERIENCE」と名付けたプロジェクトを運営し、サイクリングツアー、書道や料理教室といったワークショップなど、さまざまなツーリズムサービスを展開する。地方に継承される昔ながらの生活様式を知ってもらい、持続可能な生活のヒントを訪問客につかんでもらうのが狙いだ。「たとえば、もみ殻でさえ無駄にしない。小さな布袋に詰めて、家の中の柱など木を使ったところや家具を磨き、使い終えたら土にかえす。そうした知識を共有すると、(外国からの)訪問客は自国にも同じような習慣があるかどうかを教えてくれる」という。
「SATOYAMA STAY」という名前で、昔ながらの酒場を改装した宿と、町並みに馴染むよう新築したレトロな雰囲気の宿も経営する。2軒とも随所に工夫をほどこし、地元の大工の職人技を生かすことにこだわった。アクティビティや宿泊サービスを日本語と英語で提供し、利用客の約9割は外国人だ。
SATOYAMA EXPERIENCEは、地方活性化への貢献だけでなく、日本の田舎に残る持続可能な循環型ライフスタイルを学べる機会を提供していることが評価され、ジャパンタイムズが表彰する「2022年度The Sustainable Japan Award・Satoyama部門優秀賞」を受賞した。
同社は観光サービスだけでなく、過疎化や空き家問題、地方経済の縮小といった喫緊の課題に直面する全国の自治体にコンサルティングサービスも提供する。同じような問題を抱える地方も、場所が違えば解決策も変わってくると、山田さんは指摘する。「たとえば、私たちのサイクリングツアーは大ヒットしたが、それが観光客を呼び寄せたい日本のすべての地方の町にとって、最適で唯一の解決策かといえばそうではない」。山田さんは、ある地域の成功モデルを単にまねるのではなく、成功した活性化策の背後にある要因を分析し、地域の価値を最大化する適切な方法で応用する仕組みを作ることが重要と強調する。「それが私たちの得意とすることであり、現在15の地域と協力し、地域振興のための活動やビジネスモデルの開発に取り組んでいる」という。
2020年にはSATOYAMA EXPERIENCEのコンサルティングサービスを企業研修にも拡大。「SATOYAMAソーシャルアカデミー」と呼ぶプロジェクトを発足させ、飛騨古川とその近隣の自然豊かな環境をフィールドに社員やリーダー研修を行っている。人口減少と高齢化時代の日本経済を支えるためには、「企業のために人材を育成するだけでは不十分で、企業をよくするだけでなく、社会がどう変わるべきかを考えられる、広い視野を持った社会的人材の育成にシフトする必要があるといわれている」と山田さん。飛騨古川とSATOYAMA EXPERIENCEが関与する15地域のような里山は、問題の本質に向き合い、解決策を見つけ、イノベーションや新ビジネスの創出に取り組むことができる絶好のロケーションだ。
日本にとどまらず、外資系企業にも里山の資源を研修に活用してもらいたいと話す。キャリア初期に人材育成に携わった自身の経験をもとに基本カリキュラムをデザインし、クライアントのニーズに応じて調整や改良を加えているという。
美ら地球が飛騨古川を含む16の地域とともにできることは、まだまだある。「これら地域のいくつかを横断する2週間のサイクリングツアーの準備を進めている」と山田さん。四国と広島県を結ぶ全長約60キロの「しまなみ海道」からスタートし、京都を経由して関西エリアを走り飛騨古川を目指すルートを検討中で、来春の開始を見込む。これも山田さんが世界を旅した経験から、世界の人々の休暇の楽しみ方を知っていたからこそ思いついたアイデアだ。これほど長いサイクリングツアー企画は日本では非常に珍しいが、日本の田舎で楽しむ新たな長期休暇のあり方を提案したいと夢は膨らむ。
「The Sustainable Japan Award」は、持続可能な社会の実現に貢献した個人や企業、団体を表彰するアワードです。詳細はhttps://sustainable.japantimes.com/sjaward2023をご覧ください。