June 16, 2025

【丸八ホールディングス】良質な睡眠のための潜在需要を掘り起こす

HIROKO NAKATA CONTRIBUTING WRITER

Noriyuki Okamoto, the president of Maruhachi Holdings, surrounded by a lineup of the company’s products. | Hiromichi Matono

日本の伝統的な寝具である布団は、世界でその快適さが知られるようになる以前から日本人に長年愛用されてきた。布団の歴史において注目すべきことは、今日の日本では多くの人がベッドを使用するようになったにもかかわらず、その人気が衰えないことだ。

日本の布団の長い歴史と人気は、業界の主要メーカーである丸八の成功を支えてきた。

丸八は1962年に静岡県浜松市の繊維メーカーの寝具部門として事業を開始した。当時、浜松市とその周辺地域は繊維産業の中心地として知られていた。また、戦時中の混乱から立ち直り、経済発展の兆しが見えてきた時期でもあった。

丸八の使命は、「真理の綿の追求」という経営理念のもと、良質な睡眠を得る環境を提供することだった。

「布団はかつて家庭で縫って作るものでした」と、丸八ホールディングス株式会社のCEOである岡本典倖氏は経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で話す。

Hiromichi Matono

「しかし、私たちがトラックや車に商品を積んで行商で売っていた時、家で布団を作る人は少なくなっていました。それが私たちのビジネスモデルになったわけです」

丸八は、綿やポリエステルなどの化学繊維を充填した布団が一般的だった時代に、いち早く羽毛布団を取り入れてブランドを築き上げた。当初は羽毛入り布団は庶民の間ではほとんど知られていなかった。

「私たちが扱っている商材は、基本的に『潜在需要商品』だと考えています」と岡本氏。それに対して、スマートフォンやPCのような製品は「顕在需要商品」と位置付けていると述べた。

「需要は間違いなくあるのです」と岡本氏は続けた。消費者が新しい布団を買い替えるまでの平均期間は7年8ヶ月であり、その間に布団の中の羽毛は汗などの汚れが蓄積し洗浄が必要になるという。「そのようなことについては、ある程度プロの人間が説明しないとわからないですよね」と岡本氏は言う。従って丸八では、オンラインショッピングモールなどで販売されている他社製品のクリーニングについて、素材などの条件により対応できない場合もあるが、対応可能なものは洗浄していると説明している。潜在需要商品に関しては、なぜ買い替えないといけないかを顧客に対して説明し、納得してもらうことが重要だと述べた。なぜなら顕在需要商品は価格競争に巻き込まれることになるからだ。

そもそもなぜ布団が日本で広く支持され続けているのか。西洋文化のベッドで寝る習慣が一般的になったにもかかわらず、限られた住宅スペースのために人々は畳や木の床に敷布団と掛け布団のセットを使用し、起床後にそれを折りたたみ収納している。多くの人々がベッドで寝ることを好むようになった現在でも、ベッドマットレスの上に掛け布団を使用している。丸八によると、同社の高級羽毛布団は特に直販で人気があるという。

安定した人気は会社の収益を支えているが、直近では円安や原材料価格・輸送コストの上昇が利益を抑制している。2025年3月期は、売上高118億9000万円に対して、連結純利益は前年比2.4%増の23億8000万円を計上した。

丸八はハンガリー、ポーランド、中国、アメリカ、カナダから羽毛を輸入し、フランス、オーストラリア、ニュージーランドから羊毛やムートンを輸入している。布団カバーを縫製する主要工場は現在ラオスにあり、静岡の3つの工場のうちの1つで羽毛の充填を行っている。他の2つの工場は品質検査、洗浄、リサイクルを行っている。

一方でリスク要因として挙げられるのは、訪問販売員の応募を埋めるための労働力が不足していることだ。現在の訪問販売システムでは、布団販売チャネルの約半分を占めており、十分な数の候補者を引き付けるのが難しい状況であると岡本氏は言った。

Naonori Kimura interviews Okamoto at Maruhachi Holdings’ office in Shin-Yokohama. | Hiromichi Matono

丸八は最近、個人顧客だけではなく、ホテルや旅館など法人顧客に顧客基盤を広げている。特に旅館は、宿泊客のために高品質の寝具を選択する傾向がある。「一つ考えていることは、宿泊客が使用した羽毛布団を気に入った場合に購入できるようにすることです」と岡本氏は言った。

サステイナブルな経営政策の一環として、丸八は布団の洗浄、リフォーム、リサイクルに重点を置いている。

「マルハチふとんクリニック」と呼ばれるこのアフターサービスは、布団の種類に応じて適切な洗浄コースを診断した後、毎年約16万枚の布団のメンテナンスを行っている。羽毛、綿、羊毛などの布団の種類に応じて、洗剤を布団に浸透させ、巨大な機械で洗浄し、布団の種類に応じて乾燥機を使うか広げた形で乾燥させる。

布団リフォームについては、作業員が布団の中の羽毛をチェックして洗浄し、劣化した充填物を取り出して新しい羽毛を追加する。

リサイクルシステムでは、会社は使用済みの綿や化学繊維の布団を回収し、それを原料に固形燃料「ペレット」を作り、それを温室のボイラーの燃料として使用して静岡県袋井市の特産品であるマスクメロンを栽培している。

丸八グループの今後の戦略について、岡本氏は商品情報を必要とする顧客のためのコンシェルジュサービスのようなオンライン関連サービスの重要性を指摘した。「インターネット関連サービスにさらに焦点を当てる必要があります。オンラインと組織内の対面販売スタッフを融合することがますます重要になるでしょう」と岡本氏は言った。

もう一つの可能性は、ホテルや旅館での宿泊客の睡眠体験を支援し、高品質の寝具のショーケースのようにすることだ。宿泊客が寝た後に製品を気に入った場合、丸八布団を注文して配達できるようにする。

「やはり良い寝具に慣れると、以前のものがそれほど快適でないと感じるかもしれません」と岡本氏は話す。「寝具というものは、そのようにしてレベルアップしていくものです」


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

「寝具」から人々の健康と豊かな社会を創出する

丸八ホールディングスが創業されて60年余り、この期間で日本の社会構造が大きく変容し、人々の生活環境がより豊かになった。寝具業界の「新興勢力」として、羽毛布団の様な新しいトレンドを一早く取り入れ、ダイレクトセールスという販売スタイルを通じて日本人の睡眠文化の質の向上に、長年にわたり貢献を続けてきた。同時に、生産活動を通じてアジアの国々の産業発展に貢献しながら、クリーニングや羽毛リサイクル等、眠りの快適性とサステナビリティを両立する事業モデルを発展させてきた点も注目に値する。

我々は人生の1/3を睡眠に充てていると言われており、眠ることなしに生きていくことは出来ない。社会課題でもある「心身の健康増進」や「生産性の向上」にも、「上質な睡眠」は必要不可欠である。「寝具はアパレルである」と岡本会長が語られる通り、普段何気なく使っている寝具が、我々の健康や日々のパフォーマンスに非常に大きな影響を与えている。

高齢化と人口減少が進展する日本が、将来に渡り発展を続けるためには、人々がより健康で活力に満ちた社会づくりが必要だ。この先も「丸八のふとん」は、社会インフラの一つとして、我々の日常に寄り添う存在であり続けるであろう。

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