March 05, 2020
「第11回 Satoyamaカフェ」 優れた政策の鍵は適切なデータの分析にあり(一般社団法人 Community Future Design代表 澤尚幸氏)
「データは事実の一部にすぎません。データによって全ての説明がつくわけではありません」と、12月16日に東京で開催された「第11回 Satoyama カフェ」で、澤尚幸氏は話した。
Japan Times Satoyama 推進コンソーシアム、ガイアックスとおうえんフェスによって設立された「地域おうえん BASH」の共催で行われた本イベントで澤氏は、政策立案と地域振興におけるデータの有効活用について、自身の考えを述べた。
澤氏は、地方自治体や企業を対象に地域振興と政策立案に関するコンサルタントサービスおよび支援の提供を行う一般社団法人 Community Future Design の代表だ。「データのみに重点を置くと、その他の重要な要素を見落とす可能性があります」と、同氏は指摘した。
そして澤氏は、一般的に地域振興に関わる人たちは楽観的になり過ぎる傾向があると述べた。それは、データの無作為収集が解答を与えてくれると誤解されているためだ。
「まずターゲットを設定し、そのターゲットの達成に必要なデータ類を収集・分析する。これが正しい手順です」と、澤氏は説明した。
東京大学理学部で数学を専攻した澤氏は25年間、郵政省(現総務省)に勤務。在省時には商品開発から財務、経営計画、経営戦略まで、さまざまな分野に携わった。また、澤氏は担当業務の一環として、全国47都道府県を訪れた。
官僚として勤務した最後の数年間、澤氏は郵政事業の民営化に関わり、2015年の日本郵政株式会社の株式上場を支援した。同じ年、澤氏は独立し、Community Future Design を設立した。
それまでの自身のキャリアを通じて、澤氏は裏付けに基づいた政策立案の重要性に気付いた。この点に気付く前から、澤氏はよく、データの内容とその活用方法について明確に理解する必要があると訴えていたという。
「地方活性化に取り組んでいる人々の多くは、地域内の高校の魅力化で地域の人口減少が食い止められると信じています」と、澤氏は話した。それを示すデータや、このような考えを裏付ける例も多数存在する。しかし、澤氏はこれが真に意味することは、高校を魅力的にするだけの努力ができる地域には、そもそも人口減少問題を包括的に解決するために必要な、地域活性化につながるさまざまな取り組みをも実行できる条件が整っているということだという。
「相関関係と因果関係は別物です。考えなければならないのは、データの裏にある理由です。それを怠り、単純にデータ上の数値を見て政策決定を行うと、誤った政策を作り出すことになります」と、澤氏は述べた。さらに、データは「正解」につながる範囲を狭めてくれるが、その正解が何かは教えてくれないと指摘した。
この Satoyamaカフェで澤氏は、自身が政策立案アドバイザーを務める広島県福山市で開催されるイベントの改善を目的に導入された、データの有効活用の一例を紹介した。
「イベント来場者数の集計。自治体の多くが本作業を行いますが、実はあまり役に立っていません」と、澤氏は話した。よって福山市では、イベント来場者数が最多、または最小を記録した時間帯、空席数や無料・有料イベントにおける出席者数の開きなどの情報を集めるため、職員がイベントの間に収集されたデータの分析を行っているという。データの分析結果が良いイベントとは何かを正確に特定できなかったとしても、「イベント自体の向上と企画作りの効率化を図る上で、何を拡大し、また、何をやめるべきかのアイデアを与えてくれるのです」と、澤氏は語った。
さらに、島根県江津市と雲南市、瀬戸内海に浮かぶ島に位置する山口県周防大島町における地方活性化の例を挙げながら、澤氏は活性化に成功したといわれている地方自治体には、共通する3つの特徴がみられると強調した。
1つ目は、強い危機感を持つ個人や団体の存在。2つ目は、活性化が始まりやすい環境と活性化促進に有利な構造。3つ目は活性化を維持するための仕掛けで、例えば、リーダーや起業家を確保する仕組みや、これらの人々を対象にした支援システムなどだという。
「地方活性化の成功例とされている地域の地方自治体の一部は、故郷を一度離れた第二世代や第三世代の住民を含め、新規住民を受入れています」と、澤氏は説明した。そして、「第一世代と第二世代は折り合いが悪い場合もありますが、第三世代への支援は惜しまないという人が多く、若者が新しいことに挑戦しやすいのです」と続けた。