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社会課題の解決へ、「空気を入れないボール」の挑戦

May 07, 2021

株式会社モルテン
代表取締役社長兼CEO 民秋清史
矢崎ノースアメリカ勤務を経て2006年モルテン入社。取締役兼執行役員として海外営業や経営企画、広報を担当し10年から現職 | Hiromichi Matono

世界の主要プロリーグやオリンピックで使われる公式試合球の製造を手掛けるモルテン(広島市)が「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みを加速させている。その最新例として1月、組み立て式サッカーボール「マイフットボールキット(MY FOOTBALL KIT)」の提供を開始。教育格差という世界的な社会課題の解決を目指すと同時に、使い終わったボールのゴミ問題に対応する。社長兼CEOの民秋清史氏は、「市場シェアや売り上げ規模よりも、企業への“期待”に人と資金が集まる時代。(企業として)社会に生み出す価値を考え続けることが大事だ」と力を込める。

モルテンの創業は1958年。競技用ボールのメーカーとして幅広い層から愛されるグローバルブランドだが、実際はスポーツ用品のほかにも自動車部品、床ずれ防止用マットレスや車いすなど医療・福祉機器、マリン用品、耐震目的の橋梁用ゴム支承など親水・産業用品を扱う社会基盤の合計4事業を展開する。祖業のボール製造で磨いた空気圧を操る技術と、自動車部品用のゴム・樹脂など材料開発で培った高分子化学の知識や技術を横展開して新事業を切り開き、世界で4000人弱を雇用する。

マイフットボールキットは、サッカー少年だったという一社員の「スポーツを通じて子供たちに成長のきっかけをあげたい」という思いから生まれた。「SDGsの理念は『誰一人取り残さない』こと。世の中にはボールをもらえない子供もいれば、子供にボールを買い与えられない親もいる。だったら誰かが代わりにボールを作って届ければいいんじゃないか」(民秋氏)。そう考えて社内外のデザインや教育の専門家も巻き込んでアイデアを練り、ものづくり企業の技術とノウハウを結集して商品化した。

モルテンはキットの開発にあたり、SDGsの17の目標のうち2つに注目した。1つ目は「質の高い教育」だ。日本の伝統的な竹鞠に着想を得たデザインは、3種類の合計54個の部品を組み立ててボールを完成させる。ボールを組み立てる課程で立体感覚や考える力を身につけ、達成感や楽しさを経験することができるという。

2つ目は「つくる責任・使う責任」。そもそもボールを組み立て式にしたのは、市場として想定する発展途上国では空気入れが手に入り難い場所も多いからだが、「最初から空気が入っていないボール」なら空気入れが不要なのはもちろん、空気が抜けて廃棄されるボールを減らすことにもつながる。ボールが破損しても、壊れたパーツを取り替えれば再使用できる。パーツ素材には環境に配慮して再生ポリプロピレンを40%使用した。今後は生分解性プラスチックを利用した商品開発も検討しているという。

特筆すべきは「1つのプロダクトが既存事業にも影響を与え、環境問題を社員みんなで考えるきっかけになった」(民秋氏)ことだ。「シングルユース(使い捨て)のプラスチックを減らすため、商品のビニール包装をやめるなどの案が出てきている」。発展途上国にキットの生産拠点を設け、現地の雇用創出に貢献することも視野に入れている。

Kiyo Tamiaki and Minako Suematsu discussing the U.N. sustainable development goals before the ESG Talk | Hiromichi Matono

マイフットボールキットは一般販売を行わず、趣旨に賛同した団体や企業に提供して子供たちに届けてもらう。モルテンの海外拠点の人材と人的ネットワークを活用し、これら団体・企業の現地での活動を支援、結果を報告するサービスも提供する。その先に見据えるのは「支援を必要とする人や国と支援者をつなぐプラットフォーム」(民秋氏)の構築だ。「富を再分配する仕組みは、おそらくこれからもっと必要になる。そのための第一歩」と位置付ける。

医療・福祉機器分野では、2019年に車いす市場に参入した。視力矯正器具の「眼鏡」が、いまや視力を補うだけでなくファッションアイテムの「メガネ」として浸透したのと同じように、機能が豊富で優れているのは当然として「デザイン性や美しさ、快適性」(民秋氏)の追求にこだわった。障害者も高齢者も利用する車いすの改良は、豊かな人生を支え、健康で安心して暮らせる社会の実現に資するというブランドステートメントにも合致する。第一弾商品の「ウィーリィ(Wheeliy)」は2020年、世界の傑出した工業デザインを表彰する「iFデザインアワード」を受賞した。

マイフットボールキットもウィーリィも、今年で7回目となる「戦略研修」と呼ぶ期間1年の社内研究制度の成果を具現化したものだ。7~8名の選抜社員と全役員が月1回集まり、社員がプレゼンをする新規事業案を議論する。SDGsやESG(環境・社会・企業統治)という言葉を耳にするようになる前から事業を通じた社会貢献を社内で話し合い、実行してきた。 成功体験を積む一方で、マイフットボールキットは素材にプラスチックを使用するなど環境面の課題も認識しているという。「未解決の課題はあるが(教育格差やゴミ問題など)何かダメだと思ったら解決に向けてとにかく一歩進むことが重要ではないか」と民秋氏。今後のチャレンジを問われ、「瀬戸内海に面した広島の企業として海洋問題に取り組みたいし、グローバルに事業を続けつつローカルの問題にも目を向けていきたい」と覚悟を語った。

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