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バイオエコノミー最前線。発酵で地域を活性化する新潟県長岡市の挑戦

June 28, 2021

ライター: 塚田有那 TRANSLATION: EDAN CORKILL  EDIT: JAMES KEATING

現在、小笠原渉教授が水田の土壌改善に取り組む新潟県山古志村の棚田。朝焼けには美しい田園風景が広がる。
写真提供/長岡市

サスティナブルな社会実現のため、再生可能なバイオマスやバイオテクノロジーを活用して新たな経済循環を生み出す「バイオエコノミー」が注目を集めている。だが日本では古くから「発酵」という生物の力を用いて経済を生み出す文化が続いてきた。いまこそ発酵と科学をかけ合わせて、新たに地域経済を活性化することはできないだろうか?

その点にいち早く着目したのが、日本有数のコメの産地である新潟県の長岡市だ。米の名ブランド「コシヒカリ」発祥の地であり、全国2位となる計16ヶ所もの日本酒の蔵を有する「醸造のまち」でもある。この長岡にて、「発酵を科学する」をコンセプトとする「長岡バイオエコノミー構想」が立ち上がった。この事業の推進者であり、長らく発酵を研究する長岡技術科学大学の小笠原渉教授に話を聞いた。

小笠原渉
長岡技術科学大学教授。発酵の専門家として、国内外のメディアや学会で活躍する。「発酵ミュージアム米蔵」の一角には、小笠原渉教授のラボ兼コミュニティスペースもオープン。

「微生物の世界は、99%が未知だと言われています。発酵食品を食べると健康になると言われますが、実際のところなぜ体にいいのか実態はまだ解明されていないんです。微生物の謎があと10%でも判明すれば、世界が一変すると言われています」。

発酵技術も作り手の裁量によるところが大きく、具体的な菌のはたらきについてわかっていない部分も多いという。その発展を目指して、発酵の研究を資源循環社会に活かそうとする取り組みが始まっている。

「いま注力しているのは田んぼの土壌改善です。いま化学肥料や農薬の代替手段として、微生物を活性化させて有機肥料をつくりだす研究を行っています。化学肥料は生産を安定させる代わりに土壌を悪化させてしまいますが、完全無農薬にするのもかえって虫の被害が増えてしまってハードルが高い。その分、土地の環境に適した微生物環境を整えていけば、自然に負荷をかけない生産が可能になると考えています。現在は長岡市内やお隣の山古志村の田んぼを使った実証実験が始まっています」。

また現在は米食が減っていて、2020年はコロナの影響もあって200万トンの米が廃棄されたという。政府は減反政策も行っているが、余ったコメをどう活用するかは全国的に大きな課題だ。「その有効活用として、コメの廃棄物をつかって有機肥料をつくったり、発酵を通じた新たな加工品の提案をしたりしています。元々日本酒や調味料も備蓄米をうまく利用するために発展した文化ですし、新潟県はおせんべいなどの米菓子の生産も盛んです。現在はコメ原料の酵母で食用油をつくるプロジェクトや、日本食を推進するべく糖質を制限したコメ加工品の研究も進んでいますね」。

こうした取り組みを地域の人々にも広げるべく、長岡市と小笠原教授は様々な試みに取り組んでいる。地元の人と観光客が一体となって発酵文化を楽しめるイベント「発酵Trip」を開催するほか、2020年には100年前の酒蔵を改装した発酵に関するミュージアムがオープン。地元の発酵食品を味わえるカフェや発酵について学べるラボも併設するなど、新たな観光名所が誕生した。また、全国の10代向けに発酵と科学のアイデアを募る「発酵を科学するコンテスト」を主催し、長岡市のみならず各地域の発酵文化を見直し、サイエンスの視点を取り入れながら新たな商品開発や地域資源のアイデアを育んでいる。これらの取り組みが全国に広がっていけば、発酵は日本における地域活性の鍵を握る存在になっていくだろう。

1887年創業の酒造を改築した「摂田屋6番街・発酵ミュージアム米蔵」。市内に6ヶ所ある蔵見学の拠点として、地域の発酵文化を学べる展示ルームやラボ、カフェを併設する。
写真提供/長岡市

長岡の発酵文化が集結したイベント・発酵Trip。2019年は建築家・隈研吾の設計でも知られる長岡のコミュニティスペース「アオーレ長岡」をメイン会場に開催され、来場者は1日で5000人を超えた。
写真提供/長岡市

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