January 27, 2023

北海道一番のワイン産地・余市のイタリアン・オーベルジュ。

By TAEKO TERAO

大ぶりに切った紅芯大根をじっくり揚げた一品。カリッと香ばしい食感のそば粉の衣が、紅芯大根の甘みを引き立たせる。完全放牧の黒豚ロースの脂を添えて。
PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

今回紹介するレストランがある余市町は、北海道の北西部、積丹半島の根元にある人口約1.8万人の小さな町だ。ニセコから車で70分、新千歳空港からは車で90分(雪が積もれば2時間ほど)の距離にある。「余市」という地名は、北海道の先住民族であるアイヌ語にルーツがあり、余市川上流に温泉があることから「温泉のあるところ」、「蛇のいるところ」など、いくつかの説がある。江戸中期から1950年代まではニシン漁で栄えたが、今は海老やイカ、カレイなどが漁の主流の港町。リンゴやさくらんぼ、梨などフルーツの産地としても名を馳せるほか、1930年代にウイスキーの蒸留所が、1970年代にはワイナリーが設立されるなど、日本有数の洋酒の町として発展してきた。現在は50軒以上のぶどう栽培農家、11軒のワイナリーを数える、北海道内一の生産量を誇る一大ワイン産地となっている。

ワイン用ぶどう畑の隣に店を構えるイタリアン・オーベルジュ〈余市SAGRA〉。オーナーシェフ、村井啓人がつくるのは余市産を中心とする北海道産ワインに寄り添う料理だ。10品前後のイノベーティブなディナーコースには、土地に古くから伝わる食材を保存する知恵が盛り込まれる。

Hokkaido (Italian)
<余市SAGRA>
北海道余市郡余市町登町987-2 Tel:0135-22-2800
https://sagra.jp

「自然豊かで食材にも恵まれた土地ですが、同時に気候も厳しい。海が荒れやすい冬は1ヶ月に2度しか漁が出ないときもあるので、野菜や保存食にも力を入れています」

たとえば、12月のある日の前菜は、保存性を高めると同時に寄生虫対策にもなるため、冷凍してから薄切りにするルイベという調理法で仕上げたサバに、小サバの塩辛やウドの実の酢漬けを合わせたもの。地元産シードルとの相性が抜群だ。ムカゴを練り込んだ生地でハタハタを包んだカネロニには白貝の塩辛などで塩味や旨味を添えて、華やかな香りのケルナー種のワインを合わせる。

食事だけの利用もできるが、可能なら宿泊して、ごはんと味噌汁を中心に、豆腐や納豆、海苔まですべて手作りの朝食もいただきたい。煮物、焼物など、豊富なおかずはディナーに劣らぬクリエイティブな仕上がり。デザートにも力が入っている。取材時は近所の牧場で搾った牛乳を、低温殺菌するときと同じ温度で温めてからつくったアイスクリームの焼芋添え。生命力溢れる、力強い味わいに圧倒される。

「今後は月1回、アクティビティ付きの連泊プランも販売します。川でカヤックを漕いで行者ニンニクを採ったり、鮭の遡上を見に行くなど、いろんな催しを通じて、たくさんの人に余市の魅力をもっと伝えられたら」

また、地元農家が処分に頭を悩ませる果物の余剰生産物を用いて、おみやげとして喜ばれるようなお菓子をつくりたいという構想もある。地域に根付く料理人として、村井にできることはまだまだ、たくさんあるようだ。

村井啓人(むらい ひろと)

1976年北海道札幌市生まれ。実家は和食店であることから、幼い頃より料理人を志す。札幌市のイタリア料理店を経て、27歳で渡伊。1年かけてイタリア各地のレストランで腕を磨く。帰国後の2006年〈札幌SAGRA〉をオープン。2017年、北海道余市郡余市町に移転し、〈余市SAGRA〉をオープン。北海道の食材とワインでゲストをもてなす。


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DESTINATION

ニッカウヰスキー 余市蒸溜所

日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝が北海道の余市に工場を建設したのは1934年のこと。今から約90年前だ。スコットランドから持ち帰った製造技術を元に理想のウイスキーづくりを行いたいと願う竹鶴が見つけた理想の地がこの余市だったのである。

こうして生まれた<ニッカウヰスキー>の蒸溜所は余市を代表する観光スポットだ。敷地内に点在する10の建物は国の重要文化財にも指定されている。ウイスキーの試飲もできる工場内見学のガイドツアーは完全予約制だが、事前予約をしてでもぜひ訪れてみたい。

北海道余市郡余市町黒川町7-6
蒸溜所内、各施設見学は完全予約制。見学無料。
ミュージアムや有料試飲コーナー、ギフトショップ、レストランは予約不要。
Tel:0135-23-3131(9時~16時) Fax:0135-23-3137(予約専用)
https://www.nikka.com/guide/yoichi/about.html

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