May 18, 2026

【ネットイヤー】顧客への価値創出に向けて生成AI中心へ全面的に転換

Hiroko Nakata Contributing writer

廣中龍蔵 代表取締役CEO | COSUFI

人工知能(AI)技術の進展を背景に、デジタルマーケティングを手がけるネットイヤーグループは昨年、生成AIを事業の中核に据える方針を打ち出した。

「私が約2年前に社長に就任した当時、生成AIが今後拡大する時期だったが、『これからはすべての経営資源を生成AIに投入すると発想をドラスチックに変えていかなければ生き残れない』と社員に伝えた」。廣中龍蔵社長は、経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう語った。

生成AIへの移行を決断

国内では、技術進化のスピードに比べ、生成AIを本格的に業務へ組み込んでいる企業はまだ多くない。一方で、個人レベルでは活用が進みつつある。廣中社長は「マーケティングを主軸とする当社としては、顧客と共に生成AIをいかに効率的、効果的に活用できるか考えなければならない」と指摘する。

AIが社会に与える影響は、インターネットが生活を大きく変化させた時の影響に匹敵する。ネットイヤーは1999年、インターネットの黎明期に設立され、事業拡大を背景に2008年には東京証券取引所マザーズに上場した。現在は、東証スタンダード市場に移行している。

2019年には、NTTデータにグループ入りして、システム開発事業との相乗効果を通じ、デジタルマーケティング事業の価値向上を図ってきた。現在までに1,000社を超える企業と取引し、年間の業務件数は約2,800件に上る。

同社は顧客の消費行動のデータを蓄積しているが、それを十分に分析しつつ新商品の企画や顧客関係の深化には至っていなかったという。廣中社長は、こうした問題意識が社内で十分に共有されず、「ウェブサイトやスマホのアプリの制作といった業務に重点が置かれがちだった」と振り返る。

こうした状況を受け、同社は生成AIへの経営資源の集中を決断した。2025年3月期の決算では、売上高33億7,790万円に対し、純損失3,375万円を計上。前期の黒字1億610万円から赤字に転じており、生成AIを成長の起点と位置付ける。

連携を強化し、人材育成に注力

最新の事業計画では、NTTデータおよび同社グループとの連携を強化し、生成AI分野での新規法人顧客の獲得と顧客基盤の拡充を目指す。NTTデータは昨年、米OpenAIと戦略提携を結び、日本初のOpenAIエージェントとしてAI事業のさらなる展開を進めている。

ネットイヤーは、生成AI分野の人材育成にも注力する。これまで外部委託してきたAI関連業務を内製化し、業務効率の向上を図る方針だ。

生成AIを巡る競争は、2022年11月の対話型AI「ChatGPT」の登場以降、急速に激化している。企業は業務効率化や新サービス創出を目的に、AI活用を加速させている。

同社は、生成AIの影響により経済価値が向上する可能性のある分野として、カスタマーオペレーション、マーケティング・セールス、ソフトウェアエンジニアリング、研究開発を挙げる。いずれもネットイヤーの主力事業領域と重なる。

2023年のマッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、これらの分野が特に大きな影響を受ける理由として、カスタマーオペレーションでは顧客対応の効率化と自働化が進み、マーケティング・セールスではデータ分析やパーソナライズされた広告の作成によって恩恵を受ける。ソフトウェアエンジニアリングではコード生成やバグ修正の自動化が進み、研究開発(R&D)では新製品の設計やシミュレーションの高速化が進むとされている。

新たなビジネスモデルを提唱

廣中社長は、生成AI活用の鍵として「パーソナライゼーション」と「自動化(オートメーション)」の重要性を強調する。「パーソナライゼーションにつながるような顧客データを持たなければ、競争の中で戦う武器を失う」とし、決済など消費行動後のプロセスも自動化が進む可能性があると話す。

さらに、生成AIを活用する上で企業が注目すべきもう一つの重要な側面として、消費者データをリアルタイムで更新できる能力を挙げている。

同社は将来、企業と顧客がそれぞれAIエージェントを介してやり取りする社会の到来を想定し、新たなビジネスモデル「ABAC (AI agent-Based Autonomous Communication®)」を提唱する。

例えば、エンドユーザー向けのAIエージェントは、利用者の消費行動を企業に知らせる役割を果たす。一方で、製品に関する知識などを備えた別のエージェントは、そのデータを自律的に処理し、企業のビジネスに活用する。

また、同社は最新の事業計画で「生成AIを活用できるかどうかが、今後の企業活動の分水嶺になる時代」と述べている。

まずは、検索前提で設計された企業のデジタルメディアを生成AI対応へ転換する支援を行う。同時に、生成AI技術を取り入れることによって社内の生産性を高め、NTTデータと連携しつつ顧客企業向けAIエージェントの開発を進める。

将来の成長を見据え、社内のAIタスクフォースを拡充し、顧客との実証実験にも対応できる体制を整える。社員を対象に、人工知能・深層学習・ビッグデータを専門とする東京大学の松尾豊教授が主宰する生成AI研修への参加も予定している。

廣中社長は「マーケティングを主軸とする当社としては、顧客と共に生成AIをいかに効率的、効果的に活用できるか考えなければならない」と指摘する | COSUFI

Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

ネットイヤーグループは、生成AI時代の到来を見据え、その利活用を通じて顧客価値創出の高度化に踏み込んでいる。従来より顧客体験(CX)を起点としたマーケティング支援を強みとしてきた同社であるが、過去にはWeb制作やシステム開発といった「作ること」に重心が置かれていた側面もあった。そうした中、顧客データの活用と成果創出へと軸足を移し、提供価値の再定義を進めている点に本質がある。

特に、検索を介さず意思決定が完結する環境変化を捉え、パーソナライゼーションとリアルタイム性を軸とした価値提供へと進化させるとともに、企業と顧客のAIエージェント同士が接続する「ABACモデル」を構想し、将来の顧客接点の在り方そのものを再定義しようとしている。加えて、NTTグループの一員として、同グループが有する先端技術やデータ基盤を活用しながら社会実装を推進できる点は、同社の競争優位を支える重要な要素である。

こうした新領域の開拓においては、価値創出とリスクが表裏一体となる中で、顧客との信頼関係を基盤に共に判断しながら最適解を探る姿勢が重要となる。企業としての生産性とレピュテーションを高め、社員一人ひとりが誇りを持てる組織へと進化させていきたいと廣中社長は力強く語る。同社の挑戦は、デジタル社会における価値創造の在り方に新たな方向性を示すものとなるであろう。

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