March 28, 2025

群馬県の小さな村にある薪焼イタリアン。

ライター:寺尾妙子

「麦のリゾットとキノコのグリル」。天然舞茸、ムキタケ、ヤマブシタケの芳醇な風味と個性ある食感を最大限に生かした一品。酸味のある山葡萄のソース、庭に咲くコスモスを添えたリゾットはメインの肉に引けを取らないインパクト。
PHOTOS: TAKAO OHTA

イタリアン・オーベルジュ『ヴェンティノーヴェ』がある群馬県利根郡川場村は人口約3000人ほどの小さな村だ。住人の人数だけを聞くと寂れた寒村を想起するかもしれないが、実際には日本百名山のひとつ、武尊山の麓にあり、観光地として活気に満ちている。東京からは上越新幹線の上毛高原駅で降り、タクシーで約30分。スキー場やゴルフ場、5箇所ある温泉に加え、年間190万〜200万人が訪れる『道の駅:川場田園プラザ』など、観光資源に恵まれているのだ。

『ヴェンティノーヴェ』オーナーシェフ、竹内悠介は東京都生まれだが、10歳から川場村育ち。自主保育の保育者である父、成光が自然の中での教育を志して移住したからだ。

「父は毎年夏にキャンプをするため、電気も水道もガスも通ってない山奥に2週間、都会の子供を連れて行くんです。僕も18歳まで毎年一緒に行っていました。そこでは毎日、薪で火を起こしてごはんを炊いたり、お風呂を沸かしたりしていました。家でも調理やお風呂には薪を使っていましたね」と竹内は語る。

竹内は料理人としての修業時代、2006年から3年間はイタリアで腕を磨いた。その最後の1年間、身を置いたのが世界一有名な精肉店とも呼ばれ、250 年もの歴史をもつトスカーナ州キャンティ『チェッキーニ』である。

群馬 (イタリアン)
ヴェンティノーヴェ
群馬県利根郡川場村谷地2593-1
https://www.29ventinove.com

「朝は肉の解体、昼以降は併設するレストランで名物のビステッカを焼いていました」(竹内)

帰国後は青森県『オステリアエノテカダ・サスィーノ』で1年間働き、2011年、東京都西荻窪に『トラットリア29』を開店。繁盛したが2019年に大家から立ち退きを宣告され、2020年にはコロナ禍に。ひとまず実家に帰ったところ、これまでは気づかなかった川場村の食材の豊かさに気づくことになる。そこで川場村で店をやると決断。2022年に『ヴェンティノーヴェ』をオープンした。

「山菜はもちろん、きのこも豊富。黒トリュフも採れるんですよ。狩にもついていって、実家の解体場ですぐに獲物を捌きます」

そんな山の恵みも含め、調味料以外は群馬県産100%の食材を盛り込んだコースは¥15,500〜(1室のみの客室で1泊2食で利用する場合は¥36,000〜。以上、税込)。表面をガリッ、中はしっとり仕上げる赤城牛のビステッカをはじめ、すべての調理に薪グリル、薪オーブンと薪の熱源で火を入れる。サービスはマダムの舞が担当する。

観光で生き残る川場村の新たな目的地として、この小さな店が果たす役割は意義あるものとなるはずだ。

竹内悠介(たけうち・ゆうすけ)

1980年、東京都生まれ。調理師学校を経てイタリアンの料理人に。2006年から3年間、イタリアで腕を磨く。最後の1年間はトスカーナ州キャンティで250年にわたって精肉店を営みレストランを併設する『チェッキーニ』で肉の解体と料理に携わり、2009年末に帰国。2010年に青森県『オステリアエノテカダ・サスィーノ』で修業の仕上げをし、2011年、東京都西荻窪で『トラットリア29』オープン。2020年群馬県川場村に移住。2022年10月『ヴェンティノーヴェ』オープン。

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