September 26, 2025
パリのラグジュアリー・ホテルも認めた岡山生まれのワイン。
COURTESY: DOMAINE TETTA
LVMHグループの総帥、ベルナール・アルノーが所有するパリのラグジュアリー・ホテル「シュヴァル・ブラン」のレストランで、今年2025年、1本の日本産白ワインが採用された。パンダのかわいらしいエチケットで知られる〈テッタ・シャルドネ〉(2023年リリース)である。そのワインを生み出した<ドメーヌ・テッタ>は岡山県の西北部の山間、新見市にあるワイナリーだ。この地はカルスト台地としても知られ、現在も多くのセメント採掘場が操業している。畑の土壌が石灰質というのは、フランス・ブルゴーニュをはじめとするワインの「銘醸地」に多い特徴だ。そのような地で、栽培から醸造・瓶詰めまでワイン造りに関する全てをワイナリーで行うスタイルを意味するドメーヌという言葉を冠し、除草剤はもちろんのこと合成肥料は与えず、薬剤の使用も必要最小限に留め、自然であることをモットーに実直なワイン造りを行っている。しかし、<ドメーヌ・テッタ>がスタートしたのは2016年。つまりこのワイナリーが生まれてからまだ10年も経っていないことになる。この土地が秘めるポテンシャルに気づき、なぜワイナリーをはじめたのか。代表の高橋竜太に話を聞いた。
「私は大学卒業後、仕事に就きましたが、24歳の時に生まれ故郷であるこの地に戻ってきて家業である建設業を継ぎました。しかし元来、起業したいという思いもあり、その時に出会ったが当時、耕作放棄地となっていたこの土地でした。そこで2009年に会社を興しこの土地を購入し、そこで働いていた従業員の方々も再び雇用しました。元々、この畑を有していたのは地元の農業法人で、1990年頃より生食ぶどうを栽培していて、少量ですが美味しい食用ぶどうを作っていたのです。ですが、そのほとんどのぶどう畑が雑木林になっていました。この土地を再生させるのもベンチャーなのではないか、とその時考えたのです。そこでこの土地を調べてみると、石灰質でワイン造りのぶどうの生産に向いていることに気づきました。岡山県は食用ぶどうの生産が盛んなので他人と同じことをやっても面白くない。ワイナリーをつくったら観光客も訪れ人も集まり、価値あるビジネスになるのではという考えからスタートしました。つまり一番にあったことは私の故郷にあるこの土地を再生させること。その土地再生のための手法がワイン用のぶどうの栽培とワイナリー建設だったのです」。異業種からぶどうづくりに参入した高橋は、栽培と醸造を担う優秀なスタッフを得て、2017年にファースト・ヴィンテージのリリースに漕ぎつけたのだ。
COURTESY: DOMAINE TETTA
現在<ドメーヌ・テッタ>がぶどうを栽培するのは8haの土地。ここに18,000本のぶどうの木が植えられ、年間2万8,000~3万本のワインを生産している。日本のワイナリーの規模でいうと、中堅のちょっと下くらいだろう。
現在、黒ぶどうは「マスカット・べーリーA」「カベルネ・フラン」「メルロー」「ピノ・ノワール」、白ぶどうは「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」「リースリング」といった品種を筆頭に、生食用も合わせ22種類をワイン用に育てている。スタートした当初は30種ほどのぶどうを、育ててみないとこの土地にどの品種が合うのか分からないという理由で試験的に育ててきたが、徐々に栽培するものが絞られてきたという。
COURTESY: DOMAINE TETTA
COURTESY: DOMAINE TETTA
高橋のワイナリー経営は順風満帆に見えなくもないが、ここ2年の気候変動には、頭を悩ませているという。
「この夏は40度を超える日が4~5日あったりと、今までは考えられない暑さに見舞われました。またその反面、異常ともいえるほど降水量も多く、湿気も高い。ぶどうが早く育ち過ぎたり、じめじめしているので病気になったりと心配は絶えません」。 そのような栽培への心配もあるなか、この先のワイナリーの将来について聞いてみた。
COURTESY: DOMAINE TETTA
「耕作放棄地を再生させるという当初の目標はある程度達成されましたが、この先、畑を増やして生産量を上げる、または売り上げを極端に伸ばして会社の規模を大きくするということは考えていません。また、私はワイナリーの経営を短期的な視点では見ていません。それよりは、毎年この土地でワインを作り続ける、そして来年もチャレンジする、この繰り返しだと思っています。コロナ禍にぶつかりましたが、2020年より海外展開もスタートしました。ラグジュアリー・ホテル「シュヴァル・ブラン」のレストランで<ドメーヌ・テッタ>のワインの取り扱いが決まったことは、この実直なワインづくりが認められたかもしれません」。
今年2025年のぶどうの収穫もこの8月下旬から始まった。インタビューはその忙しい合間に行われたが、今年のぶどうからどのような素晴らしいワインが生まれるのか、今から待ち遠しい限りである。
COURTESY: DOMAINE TETTA
ドメーヌ・テッタ/domaine tetta
岡山県新見市哲多町矢戸3136 岡山市内から車で約2時間。岡山空港から車で1時間30分。
現在は見学ツアー、カフェの営業は休止中。 ショップの営業は月・火・土曜日の11:00~16:00。来店3日前までにメールで要予約。
Email address: reservation@tetta.jp
Website: https://tetta.jp/
高橋 竜太
1976年、岡山県新見市生まれ。2009年、地元で30年以上放棄されたぶどう園を再生させるプロジェクトを立ち上げ株式会社テッタ創業。10年かけてぶどう畑を再生させた。2016年<ドメーヌ・テッタ>をスタートし、自社栽培・自社醸造のドメーヌ・スタイルのワイナリーを地域の新しい産業として興す。