July 21, 2026
【豊田通商】脱炭素を勝機に変えた総合商社

TOYOTA TSUSHO’s Strong Point
1.CDP「Aリスト」2025年版で、前年に続き2年連続トリプルA企業に選定
2.7大商社で唯一「SBT認定」を取得し、サステナビリティを事業として育む
3.再生可能エネルギー事業では2030年までに世界で10GWの発電容量を目指す
4.資源循環では子会社の再生プラスチックがトヨタ自動車の完成車に初採用
貿易商社なのか、投資企業なのか、インフラ企業なのか――。海外からすれば特異な存在に映る日本型の「総合商社」。7大商社の一角であるトヨタグループの豊田通商は、さらに特異なポジションを築きつつある。
7大商社のすべてが2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言してはいる。しかし、豊田通商は「Scope3」の全カテゴリーを開示し、「RE100」にも加盟。さらには、「SBT認定」を7大商社で唯一、取得している。利益の源泉である化石燃料事業を手放せない商社にとって、この“合格証”は容易には手に入らない。
しかも同社は、“製造業”トップ企業級の環境評価を得ている。
CDP 2024年版で、豊田通商は日本の商社で初めて「トリプルA」を獲得。さらに2025年版でも2年連続となるトリプルAを達成した。「高排出・高リスク業態」と見られがちな商社という業態にありながら、なぜ豊田通商は環境評価でここまで高い位置にいるのか。なぜ急進的に脱炭素へ舵を切れたのか。
攻めのサステナビリティ関連事業
「トヨタグループとして昔から自動車産業にどっぷりと浸かり、バリューチェーンのど真ん中で、40、50年前から再生可能エネルギー(再エネ)や自動車のリサイクルなどの事業を手がけてきました。だからこそ、CNはやってきたことの延長線上。トランジションという感じはしません」。豊田通商でカーボンニュートラル(CN)の推進を担う平田雅史CN推進部長はこう話す。
大きく動いたのは2021年7月。「未来の子供たちにより良い地球環境を届ける」というミッションを掲げ、「CN宣言」をした。平田部長が「CNは事業や会社を成長させてくれる“オポチュニティ”というイメージ」と言うように、宣言は“攻めの事業群”の投資へとつながる。
再エネ、蓄電池、水素……。サステナビリティ関連事業を成長戦略の柱に据え、「ビジネス」として育む一方で、2024年4月、石炭や重油、天然ガス(LNG)などを燃料とする火力発電事業からの撤退を表明。同年7月には脱炭素関連事業への2030年までの投資額を当初計画の1.6兆円から2兆円へと増額した。
翌2025年4月に今井斗志光社長・CEOが就任すると、戦略はさらに先鋭化していく。同年7月、SBTiから近未来目標とネットゼロ目標の認定を取得。従来目標に加え、2030年までにScope3を27.5%削減、2050年にScope1・2・3すべて、つまり“バリューチェーン全体のネットゼロ”へと一段進めたのがこのタイミングだ。
豊田通商のGHGのうち、基準年となる2019年の排出量はScope1・2で約80万t。対してScope3は約1億5000万t。その削減に、20年来の主力事業でもある「省エネ設備」事業が効く。
20年以上前から機械部門が、高効率生産設備や蓄電池を使ったエネルギーマネジメントなどを顧客工場へ提供し、CO2排出削減を促す提案を継続。そこには豊田通商の上流にいるサプライヤーも含まれており、「Scope3のカテゴリー1の削減につながっている」(平田部長)。
太陽光発電や風力発電など「再エネ事業」の成長も著しい。豊田通商のGHG全体のみならず、引いては社会全体のCN化に大きく寄与できるとあって、脱炭素関連事業への投資2兆円の半分、1兆円を再エネ事業に充てるほど注力する。核となるのが子会社のユーラスエナジーだ。
同社はこれまで、世界18カ国・地域で180以上のプロジェクトに参画。合計約515万kWの再エネ発電がある。規模拡大が続き、国内では北海道に国内最大級の陸上風力発電も計画している。
一方、豊田通商がトヨタ自動車の販売を担うアフリカでも再エネ事業を拡大している。子会社であるCFAOとユーラスエナジーが出資した合弁会社を通じ、チュニジアの太陽光とエジプトの風力などを合わせて、2030年までに原発1基分に相当する1GWの出力を実現する計画。世界全体では同年まで総発電容量10GWを目指す。
この再エネに加え、サーキュラーエコノミー(CE)もまた、Scope3の削減にも大きく寄与する主力事業。自らを「世界のリーディングCEプロバイダー」と位置づける。

50年の歴史を持つリサイクル
廃漁網、エアバッグ端材、車載プラスチック、蓄電池……。豊田通商にとってCEは、自動車・金属・資源の現場で長年蓄積してきた本業。その歴史は1970年代から始めた、使用済み自動車(ELV:End-of-Life Vehicles)の適正処理事業に端を発する。
「海外でトヨタさんの車を販売していますが、モビリティの生産・流通を支える『動脈』機能だけでなく、使用済み車両の回収や資源循環を担う『静脈』機能も引き受けてきた歴史があります」。経営企画部サステナビリティ推進室の増田順治室長はこう説明する。
動脈と静脈、両方を手がける強みが、一つの成果となって現れた。
2025年7月、豊田通商は傘下の再生プラスチック製造会社、プラニックが製造するASR(自動車破砕残さ)由来の再生プラスチックが、国内のトヨタ車で初めて「クラウン(スポーツ)」のフロントフェンダシールに採用されたと発表した。現在は「RAV4」へも採用されている。
すでに、パレット、雨水貯留槽、自動車部品工場などへの販売実績があったが、ついにクルマからクルマへの「Car to Carリサイクル」も実現した。回収されたプラスチックは選別が難しく、完成車への再利用は困難。主に焼却処分で熱回収されてきたが、プラニックでは、欧州で実用化された高度比重選別技術・設備を日本で初めて導入。Car to Carリサイクルが可能となった。
回収・素材の再生・製造への引き渡しを一貫して担う豊田通商は、資源循環を大幅にスケールさせることを狙う。照準は金属にも及ぶ。2025年7月、豊田通商は北米トップクラスの金属リサイクル企業、ラディウス・リサイクリングを完全子会社化した。
買収額は約9.07億ドル(約1344億円)。同社は米・カナダなどに100カ所超の回収・解体拠点を持ち、米オレゴン州に電炉も保有する。つまり、ここでも静脈と動脈を併せ持つ。その処理規模は、2024年度実績で、ELV約66万台など。Car to Carリサイクルの拡大に向け、大きな武器を手にした。
加速する豊田通商のCNとCE。それらは表裏一体であり、さらに自然生態系や生物多様性の損失を食い止める「ネイチャーポジティブ(NP)」も加えて考えなければならないと平田部長は説明する。
「NPの議論を侃々諤々したのですが、我々の考えではNPに、CNがほぼ包含されていると。それが我々のありたい姿で、達成する手段がCEであるというふうに整理しました。だから、CN事業とCE事業を分けて考えることは我々にはできない」
CNもCEもすべては自然を守るため。全体を俯瞰して環境へのポジティブを生む。それが豊田通商の今後の生き方になる。
日本型総合商社という業態そのものの進化を見せつけている豊田通商。化石燃料への回帰、カーボンニュートラルへの逆風も一部では語られている。それでも、平田部長はこう言う。
「僕ら50年ぐらいやってきているので、周りがちょっとした動きで流されようとしていても、僕らは流れなくても大丈夫だと知っている」
世界が惑っても、異能の総合商社の覚悟は揺らぎそうにない。





