June 27, 2025

素材のリユースと女性の活躍、ふたつのテーマをつなぐ建築。

ライター:鈴木布美子

窓から新宿御苑の緑が見渡せる設計事務所にて。建築家として多忙な日々を送るいっぽうで、最近はアクセサリーなどのプロダクト・デザインも手がけている。
PHOTO: YOSHIAKI TSUTSUI

大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」。このパビリオンは内閣府、経済産業省、2025年日本国際博覧会協会と<カルティエ>が共同し、ジェンダー平等についてすべての人々が考えるきっかけをつくることを目的としている。設計者は日本人建築家の永山祐子。彼女は大阪・関西万博のテーマ「いのち輝くみらい社会のデザイン」という言葉に、現代の建築が進む方向性に通じるものを感じたという。「万博のテーマからは、人間中心で、俯瞰的ではないヒューマンスケールの世界観を感じました。建築の世界でも、まず建物ありきではなく、人が活動するための器としてのあり方に真摯に向き合うようになってきています。そうした時代の流れにとても合った言葉だと思いました」と永山は語る。

パビリオンのコンセプトは「ともに生き、ともに輝く未来へ」。女性たちの体験や視点を通じ、公平で持続可能な未来の実現に繋げることが主たるテーマだ。キュレーターはイギリス人アーティストのエズ・デヴリン。展示は全体が5つのパートに分けられ、多様なコンテンツを体験する没入型のエキジシビションとなっている。鑑賞者は順路を進みながら、3人の女性の人生を音と映像で追体験した後に、それを自らの経験と重ね合わせる場所へと導かれる。さらに女性や地球環境、貧困などについてインタラクティヴに学び、最後は14人のロールモデルから未来のメッセージを受け取るといったかたちで進んでいく。

Women’s Pavilion in collaboration with Cartier
大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン」。実在する女性たちの経験や視点を通じて、公正で持続可能な未来のあり方を問うことがテーマとなっている。「KUMIKO ファサード」に覆われた細長い建物は2階建てで、1階は順路に沿ってさまざまなコンテンツを体験する没入型の展示。2階は主に庭園とイベント用ホールで、閉じられた1階の空間とのコントラストが見事である。

PHOTO: TOSHICHIKA IZUMI

ウーマンズ パビリオンの設計で最も特徴的なのは、ファサードのデザインだ。ボールジョイントというシステムを用い、球状部材のノードと棒状部材のチューブ、白い三角形の膜材の組み合わせでできた立体格子。それが建物の側面と屋上の一部を包み込むように覆っている。「KUMIKO ファサード」と呼ばれるこの立体格子は、永山が設計した2020年のドバイ万博の日本館で使われたものをリユース。サスティナブルであることとデザインの洗練を両立させている。しかしドバイ万博の日本館とは敷地形状がまったく異なるため、ドバイで使ったすべての部材をパーツごとに分類し、それらを用いてどのようなフォルムが可能かを細かくスタディしたという。

「ドバイ万博の開幕前に現地で初めて実物を見たときに、万博の終了後には解体されてしまうことを想像して、『日本に持って帰りたい!』と強く思ったことがはじまりでした」と永山は語る。その時点では日本でのリユースの具体的な計画はなく、実際に実現するまでにはいくつものハードルがあったという。

「日本でカルティエ主催のエキシビションでカルティエ ジャパンの宮地純CEOとお会いして、彼女もドバイ万博で実施したウーマンズ パビリオンを大阪・関西万博に継承したいと考えていることを知りました。このふたつの思いが重なったことからプロジェクトがスタートしました。その後多くの方々に協力して頂いて、現地での解体や部材の運搬といった問題も解決することができました」

今回のウーマンズ パビリオンの敷地は18m x 110mの細長い形状で、永山はそれを京町家の敷地のように読み解き、奥行きのある二層の建物をデザインした。「没入型の展示は音と映像が主体なので、どうしても外部と切り離された、閉じた建築になりがちです。今回は細長い敷地の特性を活かして、京町屋のような空間を作り、外部の光を取り込むようにしました」と永山。前方と中央に中庭、脇に通り庭を設け、庭には大阪近郊の山で集めた木々を植えた。それらの樹木は万博の終了後、もとの山に戻される予定だ。

ドバイで丁寧に解体された「KUMIKO ファサード」のパーツは40フィート・コンテナ1個半に収納し、大阪の倉庫に輸送。約2,000個の球状のノードと約6,000本のチューブの製品確認を行った。
PHOTOS: TAKAMITSU MIYAGAWA

さらに今回の「KUMIKO ファサード」は2027年に横浜で開催される国際園芸博覧会(GREEN x EXPO 2027)での再リユースが決定している。このGREEN x EXPO 2027では会場で整備される建築物を環境に配慮した「GREENサーキューラー建築」とし、素材の調達から建設、撤去、再利用までの循環プロセスに積極的に取り組むことを目標としている。

「基本的には次回もリユースですが、毎回新しい挑戦をしたいと考えています。大阪・関西万博ではドバイで使った材料だけでまったく新しいかたちを作るという挑戦。次のGREEN x EXPO 2027は、設計する建物のサイズが今回のウーマンズ パビリオンの二倍ぐらいあるので、リユースの材料だけでは足りません。そこで日本の企業が持っているボールジョイント・システムのリース材の部材を加え、それらをどう組み合わせるかという挑戦になります」

ウーマンズ パビリオンの2階には「WA」 スペースと呼ばれる、対談やパネルディスカッション、講演会などのための場が設けられている。ここでは、6つの重要なテーマ―「大いなる地球」「ビジネスとテクノロジー」「教育と政策」「芸術と文化」「フィランソロピー」「役割とアイデンティティ」に関するイベントが開催される。永山にとって女性の活躍を推進するというテーマはドバイ万博の日本館のときから彼女の意識のなかにあったという。日本館の公募があった2018年、サウジアラビアでは前年初めて女性の自動車運転が解禁され、保守的と言われた中東でも社会の意識が変わりつつあると感じた。

「それでUAEと日本のジェンダーギャップ指数(GGGI)を調べたら、UAEが121位、日本が110位で、まあドングリの背くらべ(笑)。その後UAEに行ってみると、ドバイ万博事務局長は女性だし、女性の大臣もたくさんいました。ドバイ万博後の2024年のGGGIはUAEが74位で、日本は118位でした。日本館の提案書には、「すべてのジェンダー、すべての年代、すべての国や地域の人が交流できる場をつくる」といったことも盛り込みました。その思いを今回のウーマンズ パビリオンでは、『WA』 スペースというかたちで引き継ぐことができたと思っています」

2020年ドバイ万博の日本館で使った「KUMIKO ファサード」と呼ばれる立体格子の部材を再利用した、大阪・関西万博での「ウーマンズパビリオンin collaboration with Cartier」。
© CARTIER

2020年ドバイ万博の日本館。「KUMIKO ファサード」と呼ばれる立体格子は日本伝統の麻の葉文様と中東のアラベスクをモチーフにしたもの。ドバイの強い日差しから建物を守る役割も担っている。
© EXPO 2020 DUBAI JAPAN PAVILION

「KUMIKO ファサード」は、2027年に横浜で開催される国際園芸博覧会(GREEN x EXPO 2027)での再リユースが決定している。
© JAPAN ASSOCIATION FOR THE INTERNATIONAL HORTICULTURAL EXPO 2027, YOKOHAMA

永山 祐子

1975年東京生まれ。青木淳建築計画事務所を経て2002年永山祐子建築設計設立。2020-2024年武蔵野美術大学客員教授。2023年グッドデザイン賞審査副委員長に就任。主な作品に「東急歌舞伎町タワー」「豊島横尾館」、「JINS PARK 前橋」、「2020年ドバイ国際博覧会日本館」、大阪・関西万博「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」などがある。現在「Torch Tower」などのプロジェクトが進行中。

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