June 27, 2025

1970年大阪万博のレガシー、「太陽の塔」が重要文化財に。

ライター:中和田ミナミ

公園の中に建つ「太陽の塔」の現在の様子。芸術家・岡本太郎がつくった高さ70メートルの巨大な建築だ。
PHOTOS: TOSHICHIKA IZUMI

今年2025年10月13日まで大阪・夢洲で「大阪・関西万博」が開催されているが、多くの日本人にとって万博といって想像するは、やはり1970年に行われた「大阪万博」だろう。入場者数(延べ人数)は6,421万人。当時日本の人口の2人に一人以上が訪れた数字になる。今回2025年の万博は同じ大阪でも大坂湾に面した埋め立て地で開催されているが、1970年の大阪万博は内陸部にある千里丘陵で行われた。今でもその会場跡地に万博記念公園という名前の公園と駅があるため、万博会場と間違って55年前の跡地を訪れる人もいるという冗談みたいな話も起きている。

その万博記念公園でひときわ異彩を放ち、今もそびえたっているのが、「太陽の塔」だ。芸術家・岡本太郎により1970年の万博のテーマ「人類の進歩と調和」を表現するテーマ・パビリオンとしてつくられたものだ。当時、会場中心に位置した、万博の総合プロデューサー建築家・丹下健三デザインの「お祭り広場」の大屋根と一体となった展示施設で、塔の内部展示を見ながら進むと、腕の部分から大屋根に設置された未来の展示へと導く役割を担っていた。当初は、大阪万博終了後に撤去する予定だったが保存運動が起こり、人が常時立ち入らないことを前提に「工作物」として残されたという経緯がある。しかし内部を広く一般に公開しないまま40年以上がたち、老朽化が進んだ。その後、大阪府は一般公開を決め、耐震補強とともに地下に展示空間を増築、2018年3月から塔内を見学できるようになった。

「太陽の塔」内部にある「生命の樹」。生命の進化の様子を伝える展示だ。

TOWER OF THE SUN

1970年に開催された大阪万博のパビリオン。建築家・丹下健三が設計した会場の中心施設、お祭り広場の大屋根などと一体的に 「人類の進歩と調和」を表現するテーマ展示施設としての役割を担った。高さ約70m。近年耐震補強を行い、2018年より内部空間を一般に公開している。テーマ展示プロデューサーを務めた芸術家・岡本太郎がデザイン。それを忠実に具現化するため、一流の学者や設計者、施工者が当時最先端の技術を結集。数学的解析により複雑な三次元曲面を数式化する先進的な手法を用い実現した。

「太陽の塔」は建設当初から異色の存在で物議をかもしていた。芸術家・岡本太郎はテーマ展示プロデューサーを任されたにも関わらず、「人類は進歩なんかしていない。何が進歩だ。縄文土器の凄さを見ろ。皆で妥協する調和なんて卑しい」と言い、進歩と調和とは真反対の「人類の根源とは何か?」を訴える呪術的な太陽の塔とその内部の展示をつくりあげたのだ。観客が地下から塔の内部に入ると、まず現れるのが地下空間「過去・根源の世界」だ。世界各地から集めた仮面や神像を飾るなど、生命の根源的なエネルギーを感じさせる展示になっている。その先を進むと現れるのが高さ41mの「生命の樹」だ。鉄製の幹や枝に、下から順にアメーバー、爬虫類、恐竜、人類の模型が取り付けられ、エスカレーターで内部空間を昇っていくと、その進化の過程がわかるような構成になっている。

興味深いのは、解体を前提につくられたこの謎を秘めた巨大な塔が、民意で残ったという事実だ。丹下健三をはじめ、世界的に活躍する建築家たちが技術の粋を集めてつくった、明るい未来を構想した建築が、ほぼ跡形もなく壊されてしまったにも関わらずである。そして今年5月、文化審議会が新たに8件の建造物を国の重要文化財に指定することを文部科学大臣に答申。そのなかに「太陽の塔」の名前があった。これで重要文化財内定が決まり、おおよそ半年くらいで正式に文化財指定される見込みだ。文化庁の報道発表では、「岡本太郎の造形を先端技術で具現化した大阪万博の記念碑的レガシー」と評されている。

2025年の大阪・関西万博でその会場中心に位置しているのは「静けさの森」だ。大阪各地から集められた木々でつくられた人工の森のさらに中心には丸い形の池があり、その池のほとりには『Clouds Piece』という名のオノ・ヨーコの作品が置かれている。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの名曲「イマジン」の元になった詩の名前から着想された丸い穴の形をしたアート作品だ。1970年の万博では「太陽の塔」が丹下健三の建築「大屋根」に丸い穴を開けた。芸術(野生)VS建築(理性)が対峙した結果であった。しかし2025年の万博の会場構成を見てみると、そのような対立軸はない。あるのは円という調和を表す形と、多様性を受け入れつながり、新しい世界を共にどう創るのかを表現した巨大木造建築「大屋根リング」である。2度目の大阪万博が開催される年に「太陽の塔」が重要文化財に指定されたことは偶然ではないだろう。「太陽の塔」が1970年に開けた丸い穴(思想)は、2025年の今の万博につながっているのである。

万博記念公園の中にある展示施設「EXPO70パビリオン」に飾られている模型。1970年の大阪万博の時は、丹下健三デザインの「大屋根」と「太陽の塔」が一体だったことがわかる。

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