May 26, 2026
10店のうち7店が、ここ2年間にオープンした新店が選ばれる。

今年も日本各地で地域の活性化に影響を及ぼすレストランを選ぶ「Destination Restaurants 2026」の審査会が2月上旬、ジャパンタイムズ本社(東京都千代田区)で行われた。6回目となる今回も審査員は辻芳樹、本田直之、浜田岳文の3氏と、初回から変わらぬ顔ぶれ。選考対象は、2021年(第1回)から2025年(第5回)に選出された50店を除外した「東京23区と政令都市を除く」日本各地のあらゆるジャンルのレストランだ。

今回、その年を代表する一軒「The Destination Restaurant of the year 2026」に選ばれたのは、フカヒレ料理の専門店として2025年にオープンした宮城県『気仙沼 KUROMORI』だ。近年、サメの保護と海洋生態系を守る観点から、国際的にサメ漁が規制され、フカヒレの取引が禁止される傾向が強まるなか、サメを余すところなく使う文化が根付く気仙沼で、生産者と二人三脚で独自のフカヒレ料理を追求する姿勢が審査員から高く評価された。「日本一のフカヒレの産地から、世界での多数意見に流されずに本質的な食文化を提案する姿勢が素晴らしい」と辻が称賛すれば、本田も「東日本大震災の後、気仙沼は人口が減って大変な状態だが、世界でも稀なフカヒレ料理は、それだけで人をこの地に呼ぶインパクトがある」と語る。
また、今回は福井県、滋賀県、佐賀県という新たな地域から3軒がリストインを果たした。特に福井県越前市『TSUKIHI』に関しては、「ヨーロッパではワイナリーにレストランが併設されているのは当たり前ですが、そのモデルが日本でもようやく生まれ始めている」と浜田は述べ、今後、日本でもワイナリーとガストロノミーの融合が進んでいくであろうという、流れを予感させる選出となった。
今年は『気仙沼 KUROMORI』を筆頭に10店中7店が2024年〜2025年にオープン、またはリニューアルオープンした店であり、地方におけるガストロノミーの勢いが、ますます高まっていることが感じられた。
Comments by the three judges
辻 芳樹

辻調理師専門学校 校長、辻調グループ 代表
阪、東京、フランスにある食のプロを育成する学校の代表を務め、これまでに15万人以上の卒業生を国内外の飲食業界に輩出。2019年のG20大阪サミットでは首脳夕食会のエグゼクティヴプロデューサーを務める。農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」の審査委員や国内外での講演など様々な形で食文化の発展に貢献。2018年フランス国家功労勲章を受章。
「地方にこそ美食がある」という概念が定着しているフランスでは、ポール・ボキューズやジョエル・ロブションなど、フランスの名シェフでパリ生まれの人はいない。地方では土地の特色や民族性を表現しやすいという利点があり、日本のガストロノミーにおいても、地方の優位性は年々高まってきている。
また、これまで日本では料理人が技術を研鑽するには都会に出ないといけなかったが、昨今は地方の店でも高い技術を身につけることができるようになってきた。特に今年の10軒を見ると、技術や表現力の多様性が一気に広がったように思う。その結果、富山県『レヴォ』谷口英司シェフや和歌山県『ヴィラ アイーダ』小林寛司シェフなど、近年、地方のガストロノミーを牽引してきたシェフたちの次の世代が台頭してきた。
山形県・山形座瀧波の『Ukitomam(ウキタム)』の中川強シェフは日本料理のようで、そうでないような個性的な料理を作っていて、ここ数年で著しい成長を遂げたことが選出につながった。長野県『mano』西本竜一シェフは香りを生かすのが上手なうえに、想像もつかないような視点から食材を捉えている。
若い世代にとって、「地方で料理をするのがかっこいい」という風潮が定着してきたのは喜ばしいこと。地方のガストロノミーはまだまだ伸びる。シェフたちのさらなる研鑽を期待したい。
本田 直之

レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長
ハワイ、東京に拠点を構え、日本の地域、ヨーロッパを中心に世界の国々を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。著書は「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」など75冊300万部を超える。毎日のように屋台・B級から三ツ星レストランまでの食を極め、著名シェフのコラボディナー<Dream Dusk>、トップシェフを招待したシェフのためのイベントChef’s Gathering などのプロデュースも手がける。
「Destination Restaurants」も6年目を迎えて、候補店が行きづらい場所にもでてきている。わざわざ訪れるのは大変だが、ヨーロッパの例を上げるまでもなく、良い店であれば人は来る。人口減少や生産者の高齢化など、地方は多くの問題を抱えているが、影響力のあるレストランの存在が、その解決策のひとつになってきている。
『気仙沼KUROMORI』の黒森洋司シェフの取り組みは、地方でくすぶっているシェフや「地方に帰ろうか」迷っている都会のシェフたちにとってのいい参考例。かつては地方で高級レストランをやることは非現実的に思われたが、店舗の賃料をはじめ、コストが高騰している今となっては、むしろ東京で店をやる方が困難だ。
シェフが生まれ育った古民家を改築した滋賀県『RUKAWA』やシェフの奥さんの実家の旅館を改装した奈良県『SÉN』のように、本人や奥さんの実家を利用すれば、経営的にもサステナブルにレストランをやることができる。職住近接であれば時間的余裕もできて、食材に触れる時間が増え、創造性も増えるはず。それがひいては地元のためにもなる。
さらに行政のサポートもあればよい。交通手段を整えるなど、レストランが営業しやすい環境を作れば、人も来て地元や自治体も潤う。将来的にはそのような連携にも期待したい。
浜田 岳文

株式会社アクセス・オール・エリア 代表取締役
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国イェール大学政治学部卒業。これまでに世界128カ国・地域を訪問し、1年のうち5カ月を海外、3か月を東京、4カ月を地方で食べ歩き、国内外のメディアで食と旅に関する情報を発信している。2025年11月より「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に就任。海外レストランサイトのレビュアーランキングでは8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。
2024年6月、『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版。
今年の「Destination Restaurants」は新店が目立ち、その多くが公共の交通機関では行きにくい場所にある。10年前に同じ場所でそれらのレストランが成立できたかというと、そうではないだろう。政令都市である仙台市ですら集客が難しかった。だが、コロナ禍が終わり、SNSなどのさらなる発達で、僻地での集客も可能になった。
ただ、以前のように地元の食材を使っているというだけでは済まなくなってもいる。シェフから生産者に働きかけ、「こういうものを作ってほしい」と伝え、食材の価値を上げるところから取り組むことが当たり前になってきたからだ。1店舗の発注だけではコストが合わない場合は、シェフが連携して、数店舗で購入する仕組みを作る地域も増えている。
地方のレストランの価値が高まれば、第一次産業から始まり、地域全体が活気づく。また、東京のレストランの価格がかなり上がっているなか、地方はまだまだ値頃感があるということも有利に働く。だが、なんといっても、海を見下ろす丘に位置する北海道『炉ばたとワイン K』や、富士山麓の森の中にある山梨県『nôtori』など、美しい自然の中で土地そのものを感じられる体験こそ「Destination Restaurants」の醍醐味だ。今年も地方の魅力を伝える10店が出揃った。





