May 26, 2026
食で震災復興を目指す、気仙沼の中国料理店。

今年「Destination Restaurants」に選出された10店から、2026年を代表する1店「The Destination Restaurant of the Year 2026」に満場一致で選ばれたのは、宮城県気仙沼市にあるフカヒレ料理専門店『気仙沼 KUROMORI』だった。
気仙沼市は2011年3月11日に起きた東日本大震災によって、もっとも甚大な被害を受けた地域のひとつだ。震災前から減少傾向にあった人口は震災後、さらに減り続けて現在は5万4千人強。また、市内で最高22mに達した津波により、市内の飲食店の大半が店舗を失ったとされる。以降、再開または新規オープンする店もあり、街並みも整ってはいるが、人の賑わいを考えると、未だ復興途上である印象が否めない。そのうえ、もともと高級レストランがあまりない地域でもある。そのような場所で3万円以上のコースを提供するというのは、そのこと自体が冒険と言える。
東北新幹線に乗って一ノ関駅で降り、そこから車で約1時間で気仙沼港や市場にほど近い『気仙沼 KUROMORI』が入る『ホテル一景閣』にたどり着く。街のあちこちの建物に津波到達水位の看板があり、このホテルの外壁にも2階上部まで波が来たことを示す赤いラインが引かれている。海は恐ろしい。だが、同時に恵みをもたらす存在でもある。

気仙沼市は太平洋に面し、沖合は「三陸沖」と呼ばれる黒潮と親潮がぶつかる良漁場で、世界三大漁場として知られ、港には遠洋漁業の大型漁船がずらりと並ぶ。また、入り組んだ地形が特徴のリアス海岸であることから、気仙沼湾内は波が穏やかで、プランクトンも豊富であることから魚もよく育ち、遠洋漁業や牡蠣や帆立の養殖も盛んだ。つまり、魚料理を出すにはもってこいの場所なのだ。なかでも、水揚げ日本一を誇るサメのヒレ、フカヒレをメインにするにはここ以上に相応しい場所はないだろう。
『気仙沼 KUROMORI』シェフ、黒森洋司は神奈川県で生まれ、北海道で育ち、21歳からは上京して東京の中国料理店で働いてきた。そんな黒森が宮城県に移住したのは東日本大震災がきっかけだった。
「宮城県に友人がいたのですが、2011年の3月11日から2ヶ月間連絡が取れず、心配していました。すると彼がちょうど当時、僕が東京でやっていた餃子店に姿を現したんです。そこで『こういう、うまいものを宮城県の人にも食べさせてくれないか?』と言われて、何か手伝えることがあるならと軽い気持ちでその年の10月に宮城県仙台市に引っ越しました。もちろん、宮城県が中国料理の高級食材であるフカヒレ、干し鮑、干しなまこの世界的産地であることも頭にありました」と黒森は語る。

その翌月、市内に餃子のほか、フカヒレの煮込みなども出す町中華を出店。するとたちまち、行列店になった。だが、その後、黒森は体を壊し、町中華の店を友人に譲って、1年ほど食材の産地を訪ねながらケータリングの仕事をしていたという。
「そのうちフカヒレや鮑を入れた高級コースを頼まれるようになって、その噂が広まって、『お前の料理を待っている人がいるから』と言ってくれる人が現れて、2014年に仙台市でフカヒレ料理と地産地消がテーマの『KUROMORI』を開くことになりました」と黒森。
当初はランチ¥1,800、ディナー¥3,500だったが「自分を安売りするな」との声を受け、2016年の移転オープン時にはコース¥12,000〜、さらに2019年の再移転時にはコース¥22,000〜と価格を上げるとともに内容も充実させていった。

宮城県(中国料理)
宮城県気仙沼市弁天町1-4-7ホテル一景閣1F
Tel:0226-22-0602
https://kesennuma-kuromori.jp
そして2025年9月に満を持して『気仙沼 クロモリ』をオープンする。厨房は黒森ひとり。サービスを妻の弥生が担う。
「仙台で成功して、黒森といえばフカヒレというイメージが確立されました。フカヒレの産地である気仙沼にもっと恩返しをしたいという思いが強くなってきた頃、運命的に『ホテル一景閣』の1階で店をやらないかというお話をいただいたんです。実は『Destination Restaurants』受賞シェフの友人が多いのですが、彼らは“その土地で料理をする意味”を持っている人ばかり。自分はどうなんだ? と問いかけたときに気仙沼こそが、自分にとって料理をする意味のある場所だと気づいたんです」と黒森は気仙沼移転の理由を述べる。
黒森が手がける¥33,000のコースには青ザメ、モウカザメ、ヨシキリザメ、シュモクザメといった4種類のサメの尾ビレや胸ビレ、エンガワなど風味も食感も異なるフカヒレが登場する。¥49,500コースには最高級品として知られる吉品鮑の料理も加わる。スープに揚げ物、焼物、煮込みと中国料理の技法をベースに、地元食材を組み合わせた品々は強いインパクトを残しつつ、あくまで繊細な印象が残る。それは高温でコラーゲンが溶けやすいフカヒレを扱うには高火力の熱源は不要との考えから、広東料理ではよく使われる高火力レンジを使わない調理法にもよる。そんな料理には、国内外から人を惹きつけるパワーがある。「気仙沼をスペインのサン・セバスチャンのような美食の街にしたい」と願う黒森の夢は、今、始まったばかりだ。









