January 19, 2026
未来を築くコミュニティに焦点、スマートシティ・フォーラムが東京で開催
Translator: Tomoko Kaichi

2025年10月、「第4回SSPPフォーラム」が東京・原宿のWITH HARAJUKU HALLで開催された。自治体や企業、教育機関、地域住民が集い、「“地域を主役としたサステナブルでWell-beingな”まちづくり」をテーマに、分野や立場の垣根を超えて意見を交わした。
SSPP(Sustainable Smart City Partner Program)はNTT株式会社が2020年に開始したプログラムで、地域社会と住民のウェルビーイングの最大化を目的として、地域社会を主役としたまちづくりを支援してきた。公民学が連携し、自律的かつ持続的な仕組みを共創するための「場」を提供する点に特徴がある。
その基盤となるのが、地域の現状をデータで可視化するNTTのデータプラットフォーム「SUGATAMI」、人材育成を担う「ソーシャルデザイナー育成プログラム」、そして地域と協働して課題解決や活性化に取り組む「コ・デザイン・プログラム(Co-design Program)」だ。年次で開催されるSSPPフォーラムは、これらを実践してきた関係者が経験や知見、直面してきた課題を持ち寄る学びの場として位置づけられている。
プログラムから実践へ
各地の事例からは、SSPPが理念にとどまらず、実際の取り組みとして根付きつつある様子が示された。長崎市では、ソーシャルデザイナー育成プログラムを通じて分野横断的なチームが生まれ、都市計画の進め方を見直す動きが始まっている。秋田県男鹿市では、「地方には何もない」という従来の見方を転換し、空き地や十分に活用されていない空間を新たな価値創出の起点として捉え直す試みが進められてきた。
ラウンドテーブルでは、こうした実践例を踏まえた議論が行われ、柔軟で境界にとらわれないコミュニティ構築において、SSPPが果たす役割が改めて共有された。
フォーラムでは基調講演も3件行われた。そこに共通していたのは、「データは過去と現在を照らすが、未来を形づくるには、住民のウェルビーイングに目を向けた多層的な視点が欠かせない」という認識だった。
チェンジメーカーを育成
東京大学教授でデザイン主導型イノベーションを専門とし、同大DLXデザインラボの共同ディレクターも務めるマイルス・ペニントン氏は、2027年秋に開校予定の「UTokyo College of Design」の構想を紹介した。学士課程と修士課程を合わせた5年一貫のプログラムを提供し、「See the World Through Design. Then Change it.」を理念に、社会変革を担う人材の育成を目指すという。ペニントン氏は同大の学部長就任が決まっている。
同プログラムでは、気候変動、医療アクセス、食料安全保障、都市化、文化の継承といった、単一の学問分野では解決が難しい課題に取り組む。学生は、科学、経済、倫理、文化など複数の視点からこれらの複雑な問題に向き合い、デザイン思考と幅広い学術知を統合しながら、実効性のある解決策を導き出すことが求められる。ここでは、学生が自身の興味や関心に基づき、主体的に学びを組み立てる。「将来、今は存在していない仕事に就く学生も出てくるだろう」とペニントン氏は期待する。
2、3年次には、さまざまな分野の知識とデザインのスキルを組み合わせ、実社会の課題に挑む「チェンジメーカー・デザイン・プロジェクト(Change Maker Design Projects)」に、また4、5年次には、社会的インパクトを重視した集大成となるプロジェクトに取り組む。学びの中心となるスタジオでは、産業界や外部パートナー、実践者との交流を通じて、プロジェクトの質を高める仕組みが用意されている。こうした学内外で活躍する専門家との協働は、さらなるイノベーションにつながる可能性も秘めているという。ペニントン氏は、「学生には、デザインの限界に挑戦し、自由に、かつ批判的に考える力を養い、真に意味のある解決策を生み出してほしい」と語った。

データ×情熱
東京大学経済学部教授の柳川範之氏は、直感に頼るガバナンスから脱却する手段として、「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の重要性を示した。EBPMはコミュニティ構築の透明性を高め、デジタル化は、多様な人材の登用や、小規模な体制での大規模プロジェクトの実行、経済指標にとどまらないウェルビーイング指標の活用を可能にする。
一方で、目的や予算が曖昧なまま事業が始まり、その後の検証や改善が行われない「立ち上げて終わり」の状況が、いまなお地域活性化の妨げになっているという。明確な目標設定と実務に即したデータ活用は不可欠だ。それを踏まえたうえで同氏は、「完璧なデータを待つ必要はない。できるところから始めることが重要だ」と述べ、地域の実情に即したEBPMの枠組みづくりを呼びかけた。
また、データだけでは変化は生まれないとも語った。個人の情熱と、それを生かす行政の仕組みが結びつくことで初めて変革の原動力となり、EBPMの枠組みと組み合わさることで、地域活性化は前進していくという。
「ポストデモグラフィック時代のアーバニズム」
東京大学執行役・副学長の出口敦氏は、日本が直面する急速な人口減少を背景に、都市のあり方を「ポスト・デモグラフィック・アーバニズム」として再定義する必要性を論じた。統計数値だけを見るのではなく、「いま、実際に都市にかかわっているのはどのような人なのか」を問うことが重要だとした。
「都市は制御される機械ではない。流動的な人の関わりによって形づくられる、生きた存在だ」。出口氏はこう述べ、スマートシティを「接ぎ木」にたとえた。SSPPでは、既存の基盤を生かしながら、新しい仕組みを重ねていく。この「接ぎ木」を進めるためには、成長志向から管理・保全志向への転換、データ活用の高度化、人口変動への適応、都市構造の柔軟化、ウェルビーイングの優先という5つの転換が求められるという。出口氏は、「これらの転換こそが、SSPPが目指しているものだ」と強調した。
また、人口統計を前提とした従来の枠組みを超えた視点が、ポストデモグラフィック時代においては、地域のダイナミクスを理解し、将来を見通すうえで欠かせないとした。地域が抱える課題や潜在的な価値を見極めるには、多角的な視点からコミュニティを捉える必要があると指摘。そのためには、こうした多様な知見を統合し、意思決定を支えるプラットフォームが重要になる。出口氏は、その一例として「SUGATAMI」を挙げた。
さらに、今後のコミュニティ主導のまちづくりにおいては、目標や手段が完全に定まっていない段階であっても行動を始める「漸進主義」が重要になると述べ、SSPPが今後もこの姿勢を体現し、共創とまちづくりに向けた新たな道筋を生み出していくことへの期待を示した。
共に未来を築く
SSPPは、ヒエラルキーではなく共通の目的を指針とし、実践者がともに前進していくための枠組みだ。地域を越えて学びを共有し、協働による課題解決を促す役割を果たしてきた。その強みは、より本質的な問いを立て、得られた知見を実装へとつなげ、空き地や未利用空間を可能性として捉え直す点にある。それは、受動的に存在していた空間を、変化を呼び込む能動的な場へと転換していく発想だ。コミュニティは未来を予測するのではない。自らの手で築いていく――フォーラムでは、その姿勢が共有された。






