September 29, 2023

料理と社会をつなぐフランス料理店

ライター:寺尾妙子

スペシャリテの蝦夷アワビのパイ包み焼き。昆布と鰹節の和出汁や海苔、そしてフランスではあまり用いられないアワビの肝を使った日本的フランス料理のひと皿である。
PHOTOS: TAKAO OHTA

『オトワレストラン』がある栃木県の県庁所在地、宇都宮市は、JR東京駅から東北新幹線で約50分という位置にある。二荒山神社をはじめ、宇都宮城址公園や大谷石採掘場跡などの観光名所もさることながら、この街でもっとも有名なのは餃子である(餃子と言っても中国でポピュラーな水餃子ではなく、日本風の焼き餃子だ)。宇都宮市民の餃子世帯購入額は全国屈指で、街のあちこちに専門店がある。そんな街に、エレガントな一軒家のフレンチレストランがあること自体、驚きであり、その店が父から子へと受け継がれ、アップグレードし続けていることは奇跡と言っていいかもしれない。

日本では寿司やそばを含む和食の分野では親子代々、店を継承していくケースが多い。だが、1980年代にポピュラーになった街場のフレンチでは、まだまだ、代を重ねて継承される店は少ない。だが、料理面ではもちろん、経営面でも、家族で店の歴史を紡いでいくメリットは大きい。この店のように地元に愛される店であれば、そのメリットは街そのものに広く及んでいく。

創業者は現在もオーナーシェフとして腕を振るう音羽和紀だ。1970年代を代表するフランスの3つ星シェフである故・アラン・シャペルやミシェル・ゲラールなどに師事。「修業したレストランも素晴らしかったのですがそれと同等に、店がある村の人たちが、一見、何もないような田舎の村そのものに誇りを持っている姿に胸を打たれ、東京ではなく、生まれ育った故郷、宇都宮市で店をやろうと決めました」

栃木 (フレンチ)
オトワレストラン
栃木県宇都宮市西原町3554-7
https://otowa-artisan.co.jp

1981年につくったカフェレストランスタイルの店を皮切りに、デリやレストランウェディングも手がけ事業を拡大。2007年にローカル・ガストロノミーを掲げる『オトワ レストラン』を開店する。そんな父の後ろ姿を見て育った子供たちも、自らフランス料理の世界で生きることを決意し、長男・元や次男・創も国内外の名店で修業を経て、同店のキッチンに立つ。父が作ってきた料理をベースに、息子たちの技術と感性を加え進化させたコースは、年を追うごとに評価を高めている。

長女もサービス兼ウェディングプランナーとして店を手伝い、元のパートナーもパティシエールとして同店で活躍。一家総出で日本のアイデンティティを感じるフランス料理を提供する。また、全国各地へ赴き、ときに他府県や海外のシェフともコラボレーションしつつ、栃木県の食の魅力を紹介したり、小学生への食育も含め、行政や学校、企業と手を携えながら、食を通じての社会貢献を精力的に行なっている。それでも「もっとやりたいことをやるには3世代分の時間が必要」と和紀は語る。『オトワレストラン』はさらに次なる世代への継承に向けて、歩み続けている。

音羽ファミリー

東京近郊の都市でありながら、餃子の街としても名高い栃木県宇都宮市にて、オーナーシェフの音羽和紀、長男の元、次男の創という親子2代で店を営む。和紀が開発から携わった伊達鶏など、栃木食材を洗練された手法で現代的なフレンチに仕上げている。左奥から/オーナーシェフである音羽和紀。マダムの道子。元の妻でパティシエール兼サービスの明日香。手前は和紀の息子と娘。左から長男であり、取締役料理長を務める元。次男でマネジャー兼料理人の創。2人の妹でマネジャー兼ウェディングプランナーであり、日本人として初めてのルレ・エ・シャトーの国際執行委員を務める香菜。

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