July 06, 2026
【JCOM】ケーブルテレビ運営から地域社会の課題解決を支援する企業へ

「J:COM」のブランド名で事業を展開するJCOMは、従来のケーブルテレビ事業にとどまらず、自社の事業資源を活用して地域社会や法人・自治体が抱える課題の解決を支援する社会インフラサービスへと事業を拡大することで、事業変革を進める方針だ。
「さらなる成長に向け、当社の事業そのものを再定義する必要があると考えた」。JCOMの経営企画部門を統括する常務執行役員でありサステナビリティ経営推進室長の大橋一博氏は、経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。
日本のケーブルテレビやインターネット接続サービスは、JCOMがセット販売する主力分野である一方、市場環境の変化を踏まえ、さらなる価値創出に向けた取り組みが求められている。このため同社は、日常生活を支える周辺サービスへと事業領域を広げつつある。大橋氏は「お客様が日々の暮らしの中で本当に必要としているサービスを提供していきたい」と話す。
こうした戦略は、2028年3月期までを対象とする中期経営計画にも裏付けられている。同計画では、成長余地を最大化するため現行の事業構造を見直し、放送・通信の枠を超えた新規事業領域へ進出する方針を打ち出している。
新たなミッションの土台となるのが、同社の強みの一つである営業ネットワークだ。大橋氏によると、一般家庭の顧客と対面でコミュニケーションを取れる体制が競争優位につながっている。営業スタッフは2,700名超にのぼり、ケーブルテレビ、固定電話、インターネット、モバイルに加え、電気やガスまで含めた多様なサービスを組み合わせたサービスの提案を行っている。こうした接点は、視聴データなどデジタル上での利用情報とともに、顧客への営業戦略を支えているという。
商品ラインアップには住宅向けの防犯カメラも含まれる。近年、各地で強盗などの凶悪犯罪への懸念が高まる中で提供を開始したもので、大橋氏は「住宅の防犯カメラ映像は不審者を捉えることができ、地域の安心・安全の向上に貢献すると考えている」と説明する。
これらの営業基盤で培ったオペレーションやデータ活用の知見は、クルマやバスを活用したオンデマンド交通システムの検討にも応用されている。急速な人口減少と高齢化の進展で交通手段が乏しくなる地域に対し、課題解決の一助となる可能性がある。

同社はすでに2021年、自社営業担当者向けに同システムを導入している。高精度アルゴリズムの活用により、複数の営業スタッフが担当地域内を効率的に移動できるようにした。これにより、営業車輛の台数を大幅に削減し、燃料消費量の削減を実現している。さらに、より広い利用を想定したオンデマンドモビリティサービスとして、大阪府堺市での地域バスの実証プロジェクトに参画。自治体や交通事業者と連携し、適切な交通手段が不足する地域住民向けに地域課題に合わせたサービス展開を想定する。
JCOMが注力するもう一つの分野が、自治体向けソリューション、特に学校現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。インターネットやWi-Fi基盤の整備による高速・安定した学習環境を提供し、教員と児童・生徒の円滑なコミュニケーションを支援する。さらに学生を対象に、犯罪やトラブルに巻き込まれずにインターネットやスマートフォンを使う方法を学ぶ教室も開催している。大橋氏は「こうした取り組みを通じて、事業を発展させながら同時に地域課題の解決にも取り組んでいる」と述べた。
地域への視線は医療分野にも及ぶ。同社独自のアプリを通じ、利用者はスマートフォンやテレビ画面上でオンライン診療を受けられる仕組みを整えている。
一方、自社のケーブルテレビによる地域メディアでは、防災に関する地域情報も発信している。台風や地震などの自然災害が発生した際には、各地域に根差したライブ情報を迅速に放送できる体制を整えている。
JCOMは1995年に地上波放送の受信が難しい地域向けにサービスを提供するケーブルテレビ事業者としてスタートし、この30年で着実に事業を拡大してきた。中小事業者の買収・統合を重ね、2013年にKDDIと住友商事を株主とする共同経営体制に移行すると、日本最大のMSO(複数のケーブルテレビ局を統括・運営する事業者)へと成長した。現在は全国5大都市圏に営業・サポート拠点を持ち、サービスの裾野も大きく広がっている。
2026年3月時点のJCOMサービス加入世帯数は580万世帯で、国内総世帯数6,129万世帯の一角を占める。2025年3月期の純利益は718億円となり、4年前と比べて約6.8%増加した。
ケーブルテレビ需要は年々緩やかに増加しているものの、テレビコンテンツの拡充策を講じても市場は飽和に近いとの見方が一般的だ。同社は2019年にNetflix、2022年にウォルト・ディズニーのDisney+、2023年にはWarner Bros. Discoveryと提携し、サブスクリプション型動画配信サービスとの連携によってテレビ画面で楽しめる娯楽コンテンツの幅を広げてきた。
事業領域の拡張を進める一方で、既存の通信サービスの競争力強化にも取り組む。具体的には、FTTH(Fiber to the Home)と呼ばれる高速回線を各家庭へ直接引き込む整備を進めている。従来の光ファイバーと同軸ケーブルを組み合わせたネットワークに比べて、FTTHは消費電力を抑えられるため、二酸化炭素(CO2)排出量の削減にもつながる。
大橋氏は「ネットワーク全体を切り替えることで、環境面から総消費電力の削減を目指している」と説明する。今期末の3月までに、同社のサービス提供エリアにおけるネットワークの大部分のエリアでFTTHサービスの提供が可能となる計画だという。

加えて、顧客から回収した使用済み端末機器の99%以上をリサイクルする取り組みも、CO2排出量の抑制と環境負荷の軽減に寄与していると大橋氏は述べた。
今後を見据え、大橋氏は高齢化が進む地域社会の課題解決に、より一層対応できる企業像を思い描く。具体策の一つが、現在は実証段階にある地域向けオンデマンド交通の本格展開だ。移動手段が十分でない高齢者が、必要なときに病院へ通院したり買い物へ出かけたりできる環境整備を目指す。もう一つの柱は、教育分野におけるDXのさらなる高度化である。
大橋氏は「地域が抱える課題に対する解決策を提供し、地域の持続的発展に貢献できる会社でありたいと思っている」と語った。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

暮らしと地域に寄り添い、社会課題解決型インフラ企業へと進化する
JCOMは、放送・固定通信を中心とする従来の事業領域から一歩踏み出し、顧客の暮らしと地域課題により深く関わる企業へと進化しようとしている。専門チャンネルや固定通信市場の成熟が進む中、同社は「暮らしのうれしさ」と「地域の豊かさ」を軸に、エンターテインメント、通信、地域情報、BtoB・BtoG領域を組み合わせながら、事業の再定義を進めている点に特徴がある。
その競争優位の源泉は、単なる技術や設備ではなく、地域に根差した顧客接点にある。フェーストゥフェースの営業・サポートと、利用データに基づくデジタル接点を組み合わせることで、顧客の生活課題を捉え、学校DX、防災・防犯、オンデマンド交通など、地域の安心・安全や利便性向上に資するサービスへの展開を構想されている。これらは個別施策に留まらず、人口減少や高齢化が都市部にも波及する中で、地域インフラ企業としての役割を広げる取り組みである。
また、FTTH化による省電力化や機器リユース、営業活動の効率化など、事業構造そのものを通じた環境負荷低減にも取り組む。非上場企業でありながらも上場会社と同水準でサステナビリティ経営を推進し、ブランド価値へとつなげようとする姿勢も印象的だ。JCOMの挑戦は、地域密着型企業が暮らしの質を高める社会インフラへと進化する方向性を示すものであろう。





