August 31, 2026

【野村ホールディングス】次の100年に向けて企業パーパスを国内外で共有

Hiroko Nakata Contributing writer

野村ホールディングス執行役員 CHRO兼CHO 尾崎由紀子氏 | COSUFI

2025年に創立100周年を迎えた野村ホールディングスは、2024年4月に「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」という野村グループの企業パーパスを策定した。1925年の野村證券設立以来、野村グループは強い営業力を原動力に事業を拡大してきた。

1980年代後半から1990年代初めの日本のバブル経済期には、野村を含む国内証券会社は株価高騰の恩恵を受けたが、その後は長期的な景気低迷、いわゆる「失われた数十年」の厳しい時代を経験した。2008年には、米国のサブプライム住宅ローン危機が頂点に達する中でリーマン・ブラザーズが破綻し、世界経済に影響を与えた。

明確なパーパスは、日本最大の証券グループとして世界で事業を広げてきた野村にとって、とりわけ重要だったといえる。2008年にリーマン・ブラザーズのアジア太平洋、欧州、中東、アフリカの事業を買収した同社には、世界各地の社員を一つにまとめるための共通の目標と動機づけが求められていた。

次の100年を見据える

現在、同グループの従業員数は世界で約2万9,000人に上り、そのうち約1万5,000人が日本で勤務している。2026年3月期の当期純利益は前期比6%増の3,621億円と過去最高となり、収益は同15%増の2兆1,677億円となった。

「次の100年を見据えたとき、グループとして何を目指すべきかを言語化しようということになりました」と、野村ホールディングス執行役員でCHRO兼CHOを務める尾崎由紀子氏は、経営共創基盤(IGPI)の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。

「ただ、言語化すること自体が目的ではありませんでした。私たちが目指したのは、グローバルな視点からパーパスを定義し、国や部門などの組織を越えた議論を通じて、それを社員自身の個人のパーパスと重ね合わせることでした」と尾崎氏は述べ、国内外延べ1万人以上の社員との対話プロセスは3年を要したと付け加えた。

パーパス策定後も、野村グループでは全役職員を対象にグローバルでグループ・ディスカッションを実施している。社員一人ひとりが個人のパーパスと野村グループのパーパスとの重なりを認識し、それを日々の行動につなげる実践段階にある。

尾崎氏は、2008年は野村の歴史における節目だったと語る。組織は大きく変わりグローバルな金融グループとなったが、社会に資本を循環させ、ステークホルダーの生活を豊かにするという基本的な役割は、次の100年も変わらないという。

「野村グループでは、過去に起こした不祥事への反省から、8月3日を「野村『創業理念と企業倫理』の日」と定め、毎年、野村グループ全体で二度と不祥事を起こさないという決意を新たにし、創業の理念に立ち返り、社会的責任の重さを再確認しています」と尾崎氏は話す。役職員は行動規範の遵守を誓い、グループ・ディスカッションを通じてその意識を社内に定着させている。

「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」と語る尾崎氏 | COSUFI

サステナビリティ経営に向けた取り組み

尾崎氏は、野村のサステナビリティ経営には二つの側面があると述べた。一つは事業を通じて顧客やステークホルダーを支援すること、もう一つは自社の事業活動そのものを持続可能にすることだ。

前者、すなわち事業を通じて顧客やステークホルダーを支援する取り組みの一環として、野村は今年初め、ウェルビーイングを支える幅広い活動を推進する社内組織「ウェルグローイング・インスティテュート(WGI)」を設立した。「パーパスを起点とした経営を進め、事業を通じた社会への貢献に加え、心身の豊かさも含めたウェルビーイングを目指す活動を推進するために同インスティテュートを設立しました」と尾崎氏は述べ、さらに「WGIを、事業、社会貢献、金融経済教育、人的資本の観点からサステナビリティ経営を統合する基盤と位置付けています」とも語った。

例えば野村は、若年層の経済や金融に対する理解を高めるため、全国の小学校から大学まで数千校に社員を派遣してきた。また、金融リテラシーの向上を目的に金融・経済を学ぶウェブサイトや各学校で教員が利用できる教材も公開している。

昨年、同グループは、環境、エネルギー、脱炭素、健康、教育といった分野で先端技術を活用して事業を創出・拡大する企業向けに、新たな融資枠も設けた。借り手には、長期的な視点から社会課題の解決を目指す未上場企業や、バリューチェーンの変革を目指すプロジェクトなどが含まれる。

一方、野村は2020年、海外におけるサステナブルなプロジェクトや金融を支援するため、サステナブル技術とインフラを専門とする米国のM&Aアドバイザリー会社、グリーンテック・キャピタルLLCを買収した。同事業は「ノムラ・グリーンテック」のブランド名のもと野村のインベストメント・バンキングに統合され、ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴ、チューリヒ、パリでサービスを展開している。

Cosufi

社員一人ひとりが生み出す付加価値が重要

自社の事業活動そのものを持続可能にする取り組みの一環として、野村は従業員の業績評価基準を大幅に見直すことで、人的資本の強化も進めている。

「ここ数年、業績評価における定性評価の比重を高めてきました」と尾崎氏は語る。数値目標だけでなく、部下を育成・教育する管理職の能力やリーダーシップも、現在では評価の重要な要素になっているという。また、グローバル共通の評価基準として、挑戦の精神やインクルージョンへの理解と共に、職業倫理、リスク管理、コンプライアンス、コンダクト(行動規範)も評価における重要な要素になっている。

また、尾崎氏はCHO(Chief Health Officer、健康経営推進責任者)も兼務している。野村グループでは2016年に「健康経営宣言」を発出し、社員一人ひとりが能力を発揮するためには心身の健康が重要だと位置付けてきた。近年は女性の健康支援にも力を入れ、低用量ピル服薬支援や生理休暇の見直し、卵子凍結費用補助などの取り組みを進めている。

次の100年に向け、持続可能な組織にとって重要なのは社員一人ひとりが生み出す付加価値だと尾崎氏は述べた。「社員は企業の中でさまざまな役割を担いながら、自らの知見、技術、スキル、実績によって評価されるようになっています」と語った。

社員一人ひとりの価値を高め、知見を広げるため、同グループでは社員を他部門やベンチャー企業などに派遣し、経験の幅を広げる機会を提供する取り組みも進めている。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

パーパス起点で人的資本を育み、金融資本市場を通じた社会価値創造に挑む

創立100周年を迎えた野村ホールディングスは、次の100年を見据え、グループのパーパスを策定した。同社が重視したのは、その言語化そのものではなく、策定プロセスを人的資本経営の実践の場と位置付けた点にある。三年にわたり一万人を超える社員との対話を重ねるとともに、役員自らが各組織を巡り、議論を深め、社員一人ひとりが「野村で働く意味」と自らのパーパスを重ね合わせる文化の醸成を図ってきた。

パーパスの実現に向け、国内の評価制度を大胆に見直すとともに、それに適応するための継続的なリスキリングや人材育成にも積極的に投資する。また、D&Iについても制度や数値目標を目的化するのではなく、企業が持続的に成長するための経営基盤として位置付けている点が印象的であった。さらに、欧米市場を中心に拡大するグリーンファイナンスへの対応も、金融資本市場の変化を成長機会として捉えた事業戦略そのものである。ウェルグローイング・インスティテュートの設立を通じて、金融経済教育をはじめとする取り組みを推進し、社会価値創出と企業価値向上を、本業を通じて両立させようとする姿勢に、同社らしさを感じた。金融の役割そのものが変化する時代において、同社の挑戦は次の100年の金融機関の在り方に新たな示唆を与えるものとなるであろう。

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