October 28, 2022
「アジアの最優秀女性シェフ賞」を取った庄司夏子。彼女がレストラン業界の慣習を変えるかもしれない。
庄司夏子
1989年東京生まれ。2014年〈été〉オープン。マスターピースであるケーキは世界でも注目を集め、村上隆、VERDY、TOMO KOIZUMIなど世界的クリエイターやファッションブランドとのコラボレーションでも話題。「アジアのベストレストラン50」にて、2020年に「アジアの最優秀ペストリーシェフ賞」を、2022年に「アジアの最優秀女性シェフ賞」受賞。母校、駒場学園高等学校と共に「未来のSDGs料理人育成プロジェクト」にも取り組んでいる。
「私が生きているうちに“女性”だからという理由でメディアに取材されたり、フォーカスされない時代が来るよう、革命を起こしたい」
彼女は今年、「アジアのベストレストラン50」で「アジアの最優秀女性シェフ賞」を受賞したにもかかわらず、そう言い放つ。彼女とはレストラン〈été〉オーナーシェフ、庄司夏子である。彼女が店を開いたのは2014年、24歳のときだ。
「アルコール中毒だった父が早くに亡くなり、知的障害者の妹がいて、私が家族を支えないといけなかったんです。万が一のために、融資額と同じ1000万円の保険に入って、失敗=死という覚悟で独立しました」
だが、世間は甘くない。特にレストラン業界は男女格差が大きい世界だ。若くて女性であるというだけですべてが大変だったという。開業資金を借りることも、腕のいいスタッフを雇うことも、難しかった。本当はレストランをやりたかったが、まずは自分でひとりでできるものをと考えて、最初はケーキ専門店として出発した。そこで、しっかりブランディング戦略を練って生み出した一品、まるでバラのブーケのようなマンゴーのタルトが脚光を浴び、ステップアップへの道が開けた。おかげで翌年にはレストランも併設した。そのレストラン〈été〉は高級住宅地を控える街の一角にあるものの、住所も電話番号も非公開、1日1組のゲストを相手に、完全紹介制で営業。コンテンポラリーアートと一体化したような空間で、美しさと骨太な旨味が共存するイノベーティブな料理を提供する。ケーキの次はレストランも話題を呼び、瞬く間に予約殺到の人気店となった。これも本人に言わせれば「狙い通り」である。
庄司は常に目標を立て、実行する。中学生の頃から憧れていた現代美術界の注目アーティスト、村上隆とのコラボレーションも偶然ではない。最初から狙って、勝ち取ったものだ。村上の関係者に会いたいとアピールを重ね、村上来店時、村上作品をモチーフにしたケーキを披露。そのクオリティの高さから、その後一切の手直しなしに、コラボレーションアイテムとして販売されるに至った。以来、ファッションデザイナーなどさまざまなクリエイターとコラボレーションをし、食の可能性を広げている。
次に庄司が目指すのはの「世界のベストレストラン50」最優秀女性シェフ賞だと言う。
「賞を獲って、影響力をもつことで日本や世界の料理界の男女格差をなくす手助けをしたいんです。私より若い世代の女性に、もう大変な思いをして欲しくないので」
そんな彼女は若手の育成にも積極的だ。現在、全員女性だというスタッフはもちろん、母校である駒場学園高等学校食物調理科でも指導を行う。同校の生徒を自らのレストランのアルバイトスタッフとして受け入れているほか、同校と共同でゴミから作った肥料で野菜を作り、店の食材として用いるなど、食を通じた環境問題にも取り組んでいる。また、日本の食材だけでなく、食と絡め、日本の伝統工芸の魅力も世界に発信したいという。庄司の未来は、たくさんの可能性に溢れている。